GANREF特別企画 金環日食で始める天体写真ガイド 5月21日の金環日食を撮影しよう!

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GANREF特別企画 金環日食で始める天体写真ガイド 5月21日の金環日食を撮影しよう!

執筆・撮影:飯島裕

4. どんな写真が撮れる?どう撮る?

 金環日食で太陽の欠けていく様子を撮るということは、太陽の表面を撮影するということ。太陽系最大最強の光源の表面撮影だから、普通に撮ったのでは明るすぎて露出が合わないのだ。
 したがって、太陽表面の撮影では必ずレンズの前に減光フィルターを装着しなければならない。必ず「レンズの前に」だ。機材と目の保護のために太陽の光がレンズに入る前に減光しておこう。

4-1. 太陽をクローズアップで撮る

 日食というと、まずはそのクローズアップを撮ってみたいと思うだろう。それにはどのようなレンズを使う必要があるだろうか。

 太陽は(月も)撮影するレンズの焦点距離のだいたい1/100の直径の大きさに焦点を結ぶ。1000mmの超望遠レンズだったら焦点面での太陽像は10mm、500mmだと5mmの直径になるというわけだ。この法則さえ覚えておけば、自分のカメラのセンサーサイズと照らし合わせて、どれくらいの大きさに太陽像が写せるか、すぐにわかる。

 もしも画面いっぱいに太陽を撮ろうとするなら、35mmフルサイズ機(センサーサイズ36×24mm)では2000mmくらい、APS-Cセンサー(およそ23×15mm)だと1200mm程度、フォーサーズ/マイクロフォーサーズ(17.3×13mm)では1000mmくらいの焦点距離が必要になるというわけ。意外と太陽は小さいのだ。

太陽の写真:1/2

オリンパス・ペン E-P3/BORG125SD+1.4倍テレコンバーター (焦点距離1050mm)

太陽の写真:2/2

オリンパス・ペン E-P3/BORG77EDII+1.4倍テレコンバーター (焦点距離714mm)

テレコンバーター 装着イメージ  これくらいの焦点距離ではレンズ交換のできる一眼レフカメラかノンレフレックス(ミラーレス)機を天体望遠鏡に装着するのが実戦的だろう。もちろんこのレンジの焦点距離がある超望遠レンズをお持ちの方は、それでも大丈夫なことは言うまでもない。
 300~500mmくらいの望遠レンズに2×程度のテレコンバーターを装着するという手もある。

TOAST-Pro 装着イメージ

 具体的な撮影方法としては、必ず減光フィルターをレンズ前面に装着し、露出の決定はスポット測光を使用する。太陽像のセンター付近を測光し、マニュアル露出で+0.7~1.0EV程度の明るさにセットするといいだろう。太陽中央部が白飛びせず、輪郭までくっきり写る明るさが適正露出。太陽がどんどん欠けていき、細くなるにつれて少しずつ露出を増やすと良いだろう。目安としては金環時に日食開始前の+2.0EVくらい多くかけると、くっきりした金環の写真になる。念のために0.3EV刻みで上下何コマか露出ブラケットをしておくと安心だ。

 ちなみに、太陽表面は中央ほど明るく周辺に行くにつれて暗く見える。これが本当の「周辺減光」だ。カメラのレンズを通る光が画面周辺部になるにつれて少なくなり、画像の周りが暗く写る現象を「周辺減光」と呼ぶことが多いが、正しくは「周辺光量の不足」「周辺光量の低下」という。

 超望遠撮影になるので頑丈な三脚が必要になる。太陽は明るく高速シャッターが切れるので撮影時に日周運動を追尾する必要はないが、超望遠撮影では思いのほか太陽の移動が速く、構図合わせが難しい。その点、赤道儀を使用して太陽の追尾を続けていれば、金環直前になっても落ち着いて撮影に専念できるだろう。

撮影風景  さて、ここで気をつけなければならないのはピント合わせのときだ。撮影用の減光フィルターは目に有害な赤外線や紫外線のカットが十分でないこともあるので、フィルターを使用していても一眼レフカメラの光学ファインダーを覗いてはいけない。
 幸い最近のカメラはライブビュー機能を搭載しているものがほとんどなので、安全のために構図やピント合わせはライブビューのモニターで行おう。AFが使えるレンズでは太陽の輪郭にターゲットを合わせてフォーカス、MFでは拡大表示にして輪郭や太陽面の黒点でピントを合わせる。気流の影響で予想以上に太陽像がゆらぎ、しかも強拡大でブレてしまって難しいが、根気よくピントを合わせよう。
 ピント合わせや撮影時のカメラブレを防ぐために、レンズとボディを2本の三脚で支持するのもいい。少しでもカメラブレの可能性をなくすために、リモートケーブルを使い、一眼レフではミラーアップをしてシャッターを切ろう。

ライブビュー イメージ ライブビュー イメージ

ライブビューの拡大表示を使い、太陽のヘリや表面の黒点でピントを慎重に合わせる。直射日光下になるので、フード付きのルーペを使用するとモニターが見やすくなる。

35mm判/1500mm
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APS-C/1000mm
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フォーサーズ/750mm
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『ステラナビゲータ(アストロアーツ)』でシミュレーション

必要な機材
NDフィルター/ 天体望遠鏡/ 超望遠レンズテレコンバーター赤道儀(TOAST-Pro)があると便利/ 丈夫な三脚/ リモートケーブル

4-2. 金環日食のハイライトを合成

 金環日食では、食中心の前後10分くらいの間がもっとも興味深く見応えのあるときだ。この間の形の変化を中心にまとめてみるのもいいだろう。これには焦点距離200~400mmくらいの望遠レンズがほどほどの大きさに太陽も写り、ちょうどいい。もちろんここでも減光フィルターを使用することは言うまでもない。

 これは、撮影地での食中心時刻をはさみ前後対象で3~5分おきに撮影をするのが、画面のバランスがもっとも良くなる。それぞれの撮影地での食の最大時刻を、先に紹介した日食情報サイトなどで詳しく調べておく必要がある。その時刻をセンターに前後で何回露出するか、シミュレーションの図を参考にして撮影時刻のプログラムを組んでおこう。
 太陽が比較的大きく写るので、連続撮影の間隔は3分くらいがちょうどいい。インターバルタイマーを使用するのも、撮影のミスを減らすために有効な方法である。

 この撮影では、日周運動で形を変えながら移動して行く太陽を多重露出するのもいいが、一定間隔で撮影した太陽像を画像処理ソフトで「比較明」などの合成で仕上げるのが確実だ。カメラによっては撮影後にカメラ内合成ができる機種もあるので、それを使うのもいい。
 合成の場合、実際の太陽の日周運動に位置を合わせるのがいちばん自然だが、科学的な観測記録ではないのなら、それにとらわれる必要もない。何を写真で表現するのか、撮影者のセンスの発揮どころでもある。

 構図を決める参考になるよう、各フォーマットと焦点距離でのシミュレーションした図を掲載しておいた。

 太陽がまだあまり欠けないうちにテスト撮影をして、やや明るめに形がはっきり写る露出を決めておこう。連続撮影の合成が前提なので、マニュアルの一定露出で太陽の明るさを揃える。
 薄い雲でも出ると太陽面の明るさはすぐに変わるので、0.3EV刻みで数コマの露出ブラケットをし、適正露出の画像を後から合成するのが、安全確実な方法だ。

35mm判/400mm
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APS-C/400mm
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フォーサーズ/200mm
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『ステラナビゲータ(アストロアーツ)』でシミュレーション

必要な機材
NDフィルター望遠レンズ/ 丈夫な三脚/ インターバルタイマーがあると便利

4-3. 日食全経過を風景とともに撮る

 日食というと、欠け始めから終了までの全経過を一枚におさめる写真はよく見る。日食進行の様子がよくわかり、撮影地の風景もいっしょに画面に入れることができて、とてもすぐれた記録になるからだ。

 これは5分間隔で撮影されることが多い。3分だと間隔がきつすぎ、10分だと間延びした感じがしてしまうからだろう。5分間隔だと撮影の時間管理が楽だということもある。しっかりとした三脚にカメラを固定して構図を決めよう。撮影途中でカメラの向きがズレたりしないように、撮影を開始したら極力カメラには手を触れないこと。

 この写真をねらうときは、やはり撮影地での正確な日食の最大時刻を調べなければならない。その時刻を中心に5分おきの撮影時刻を決めたタイムテーブルを作っておこう。食中心の前と後ろで露出回数が違うはずだが、これは日食の進行につれて太陽~月~撮影地の位置関係が違ってくるため。計算違いではないから安心してよい。

 この撮影では、まず、減光フィルターを使って太陽の欠けぐあいを一定間隔で撮影し、それを合成して日食経過の連続画像を作る。そして、それを太陽の入っていない空の写真と再び合成するのが一般的だ。このような写真では、どのような風景と組み合わせるかも楽しみのひとつ。金環にならない地域でも、その土地ならではの風景と組み合わせることによって、地域性のある素晴らしい記録にもなるだろう。日食を観察する人々を画面に入れるというのも面白そうだ。

 全経過撮影では、フィルム撮影時はひとコマに多重露出をするしかなく、始めから終わりまできれいに撮るのは至難の業だった。なんといっても天気がいちばん問題で、数時間にわたって雲ひとつない空が続くなどということは、この時期の日本ではほとんどない。
 しかしデジタルでの撮影では、適正のコマを選んで後から合成する方法も簡単なので、ぜひともチャレンジをしてみてほしい。やはり途中で雲がかかることも考えられるので、できるだけ広い幅で露出ブラケットをしておくのが得策だろう。雲がかかってしまった場合などは、露出を調整したり、わずかに撮影タイミングをずらすなどの臨機応変な対応が必要になるかもしれない。

 また、長時間に渡って一定間隔の撮影をするのは大変なので、インターバルタイマーの使用も考えたい。その場合は、あらかじめブラケット撮影との適合性の確認をしておこう。構図を考える場合の参考になるように、各フォーマットでの東京におけるシミュレーション図を作った。他の地域では高度と方位が若干変わるが、太陽の軌跡自体はほぼ同じ形だ。各自調整して参考にしてほしい。

35mm判/28mm
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APS-C/18mm
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フォーサーズ/14mm
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『ステラナビゲータ(アストロアーツ)』でシミュレーション

必要な機材
NDフィルター/ 広角レンズ/ 丈夫な三脚/ あればインターバルタイマー

4-4. 木漏れ日などのピンホール投影

 日食のときは空ばかりではなく、周りの風景にも面白い変化があるので見逃さないでほしい。例えば、木漏れ日や太陽光の反射など。このような風景を撮るのは、普通の風景撮影と何ら変わらない。どのようなカメラでも問題ない。唯一必要なのは、落ち着いた観察力である。

 ピンホールカメラをご存じだと思うが、木漏れ日も、木の葉で作られたピンホールによる太陽の投影像なのだ。木漏れ日をよく見ると、木の葉の形とは関係なく、ひとつひとつの光が円形をしていることがわかる。これは太陽が円形をしているためで、その形がそのまま映っているというわけ。ということは、日食で太陽が欠けてくるとその木漏れ日もそのまま欠けて映るということ。金環日食になれば、木漏れ日の光がリングになるという、とても面白い眺めになるはずだ。ぜひ注目していてほしい。

 また、鏡で太陽光を反射させて壁などに当てたことがある方もいるだろう。そのとき、反射した太陽光が鏡の形とは関係なく、円形をしていたことに気づいただろうか。これもピンホールと同じ効果で、やはり太陽の形が映っているのだ。このような反射光も、どこかで面白い風景を作っているかもしれない。太陽の方ばかりを見るのではなく、そんなチャンスも見逃さないようにしたい。

高度計

普段の木漏れ日のようす。丸い光は太陽の形が投影されたものだ。金環日食ではこれがすべてリングになる。

必要な機材
一般的なカメラとレンズでOK

4-5. 日食の風景

 太陽をからめた風景というと、やはり日の出や日没の風景だろう。そういう点では、今回の金環日食は高度が35度とけっこう高く、風景とのコラボはなかなか難しそうにも思える。とはいっても、金環日食という千載一遇の機会。金環にならない地域でも、かなり深い部分日食になるので、この太陽の姿を何らかの形で作品に取り入れたいと考えている方も多いことだろう。

 高度35度ということで考えてみると、東京スカイツリーのようなタワー、形の良い木立、高層建築、山岳、航空機、鳥、雲、などなど。いろいろな対象が考えられるが、太陽の形を見せつつ地上物と同時にとらえるのは明るさの差が大きすぎて、ストレートに撮ったのではまず不可能だ。唯一その可能性があるのは、雲越しの太陽くらいだろうか。

 ストレートに撮るか、合成を考えるか、いずれにしろ、太陽の熱と光には十分すぎるほどの注意をしなければならない。たとえ雲越しに肉眼で見えるとしても、長時間見つめるのは禁物。目に何かあってからでは取り返しがつかないのだ。ライブビューのできるカメラで、減光フィルターを必ず使用し、十分に安全に配慮した上で作品づくりに取り組んでほしい。

雲越しの部分食画像:3/3

2009年7月22日/中国・上海
オリンパス・ペン E-P3/BORG77EDII+1.4倍テレコンバーター (焦点距離714mm)

雲越しの部分食画像:2/3

2009年7月22日/中国・上海
オリンパス・ペン E-P3/BORG77EDII+1.4倍テレコンバーター (焦点距離714mm)

雲越しの部分食画像:1/3

2010年1月15日/中国・青島
オリンパス・ペン E-30/BORG77EDII+1.4倍テレコンバーター (焦点距離714mm)