なぜプロは双眼鏡を使うのか? Featuring Nikon MONARCH HG

ニコン MONARCH HG ニコン MONARCH HG
メーカー希望小売価格(税別)
8×42:115,000円
10×42:120,000円

ニコンの最新モデル「MONARCH HG」の8倍モデルを茂手木氏が、10倍モデルを中野氏が使用。MONARCHシリーズ最上位機の光学性能から使用感まで、両氏にじっくりと語っていただいた。

肉眼の能力を拡大したような見え味に
フィールドフラットナーシステムの威力を実感

茂手木氏が天体撮影現場で「MONARCH HG 8×42」を使用して

良質な光学製品は、その存在を感じさせることがない。とても迂遠な言い方に聞こえるだろうが、メガネを思い出してみてほしい。吊るしのメガネでは、度が合うにしても目に負担を感じ、いつもメガネをかけていることを意識させられるが、良い素材で丁寧に調整されたメガネはよく見えるとともに、メガネをかけているということを忘れてしまう。そのような違いだ。双眼鏡は、倍率も高く、目で直接覗くものであるだけにその差を感じやすい。どんな双眼鏡でもきちんとした製品ならば、倍率が高いゆえ、よく見える。しかし、その先だ。本当に良い双眼鏡はより詳細に見えるとともに、その存在を感じさせない。見たいと思ったものが、自然と近づいてきた感じなのだ。これは長時間の観察でも目が疲れないことにつながる。そのことが光学性能と精度の良い工作の証なのである。
双眼鏡はさまざまな国のさまざまなメーカーから製品が出ているが、前述のように存在を感じさせないほど良質な製品は本当に数少ない。ニコンではすでに、究極の双眼鏡のひとつと言えるEDGシリーズをリリースしているが、今回登場した「MONARCH HG」は、上位機種であるEDGシリーズに比肩しうる光学性能を持っており、やはり存在を感じさせない良質の双眼鏡に仕上がっている。

さて、存在を感じさせないということは、目に違和感がない、目で収差を感じることがない、色合いやコントラストが自然であるという多くの要素を含んでいる。これらは工作精度が高いこと、優秀な光学設計、優秀な硝材選び、丁寧な迷光処理に結びついており、細心の配慮を持って設計製造が行われていなければならない。写真用レンズと同様、無収差であることが理想だが、中心部の解像力のみならず視界周辺部の像質が大切なのだ。良質な双眼鏡に求めることは非点収差、コマ収差、像面湾曲が少ないことである。良質ではない多くの双眼鏡の場合、視界周辺部は回転するようにぼやけて見え、シャープに見えるのは視野中心から40%程度の範囲でしかない。これでは、視界が広いという双眼鏡本来の特質をスポイルしてしまう。ことに像面湾曲の影響は大きく、そのため「MONARCH HG」では、フィールドフラットナーシステムを採用し、像面湾曲を低減している。そのため、視界の80%以上にわたってシャープで解像力の高い像を結んでいる。だからこそ、肉眼の能力を拡大したような見え味であると言えるのだ。また、接眼レンズは広視界タイプを採用し、8×42で8.3度、10×42で6.9度の実視界を確保している。その視界のほぼ全域がシャープに見えることこそ、双眼鏡に求める本質なのである。さらに対物レンズにはEDレンズを採用し、色収差を抑え込んでいるので逆光時のフリンジも皆無だ。

拡大写真を見る
光学系にフィールドフラットナーシステムを採用することで、視野の周辺部までシャープで解像力が高い像を結んでいる。

双眼鏡ならではの構成要素にプリズムがあるが、「MONARCH HG」ではダハプリズムを採用している。ダハプリズムはその性質上、光路を折り返し反転させるがその際光の波が干渉しあい、解像力を低下させてしまう。これを解決するのは位相差補正コーティングであるが、この点でも抜かりはなく、プリズム起因の解像力低下を感じることはない。双眼鏡では対物レンズ、プリズム、接眼レンズと多くの光学素子で構成されているが、設計値通りの視野の明るさ、フレアの少ない適正なコントラスト、自然な色合いを実現するには優秀なコーティング技術が必要である。位相差防止コーティングとともに、ニコンのコーティング技術が活きていることが実感できる。

拡大写真を見る
すべてのレンズ、プリズムに多層膜コーティングを施したことに加え、ダハプリズムとして構成される補助プリズムの唯一全反射しない面には高反射誘電体多層膜を採用し、光の損失を極限まで低減させている。また、ダハプリズムに位相差補正コーティングを施し、多層膜コーティングの効果と相まって高い解像力とクリアな視界を実現した。

以上、非常に優れた光学性能を持つ「MONARCH HG」であるが、もうひとつ大事なことがある。この高い光学性能をいついかなる時にも生かせる能力を持っているかだ。その能力は防水・防曇構造である。「MONARCH HG」は単に水分が浸入しない防水構造なだけではなく、内部に窒素ガスを封入した密閉構造となっている。そのおかげで、レンズ内部に曇りが生じることがない。夜露や急激な温度・気圧の変化がある現場においては、防曇構造でない双眼鏡では内部に曇りが生じ、何も見えなくなってしまう。天体や野鳥観察、あるいは海での哨戒など、双眼鏡を使いたいフィールドでは内部を曇らせる要因が常に身近なのだ。防曇構造があって初めて、高い光学性能をいかなる時にでも使えるようになる。

最後に双眼鏡の選び方のひとつの方法を。双眼鏡で大切であるのは視界の広さだ。双眼鏡を覗いて実際に見える範囲を角度で表した数値が「実視界」である。慣れもあるが、扱いやすい実視界は7度がひとつの境目だ。ことに初めての場合は7度以下だと見たいものをすばやく視野に入れることが難しくなる。実視界は光学系の設計によって変わり、倍率が同じでも視界の広さが違うので実視界の大きさに注目しよう。そしてもうひとつ大事なポイントはひとみ径だ。対物レンズが集めた光を目に入射させる大きさを示すが、この大きさが大きいほど視野が明るくなる。カタログにある「明るさ」は「ひとみ径」の数値を二乗した数値を指標として扱っているので、「ひとみ径」の大きさがすなわち視界の明るさと考えて良い。
人間のひとみは最大7mmの大きさまで開くので、天体専用の機種などではひとみ径が7mmになっている。しかし、7mmまでひとみが開くのは健常な20代であって、40〜50代では5mm程度となる。つまり現実的にはひとみ径が5mmあれば、十分に明るい双眼鏡であり、星を観察したり、薄暮時に野鳥を探したりという用途に向いているのだ。一方、日中の明るい環境では人間のひとみは最小2mm程度となり、ひとみ径がもっと小さくても十分なのである。日中がメインならひとみ径は3mm程度、日中から星空観察までオールマイティに使いたいなら4mm程度、オールマイティでありながらさらに暗所での観察を求めるなら5mm程度のひとみ径がベストチョイスとなる。一般に双眼鏡や望遠鏡は、倍率を気にする傾向にあるが、それよりも大切なのは、ひとみ径と視界の広さなのである。さらに言えば、広い視界とは高い光学性能によってもたらされた視界周辺までシャープな像を結んでいる視界のことである。

良質な双眼鏡は一生モノである。光学性能の高さと双眼鏡選びの双方の点から「MONARCH HG」が一生モノにふさわしい双眼鏡であることは明らかだ。8倍と10倍のどちらもどんなシーンでもオールマイティに活躍してくれることは間違いない。

拡大写真を見る
はくちょう座にあるNGC7000。アメリカ大陸に形が似ているため、北アメリカ星雲と呼ばれる。これは肉眼ではほぼ見えない。双眼鏡を使ってやっと存在がわかる程度だ。カメラも「ニコン D810A」でなければ撮影が難しい被写体だ。

堅牢かつ軽量でバランスも良し!
林内での見やすさは大口径ならでは

中野氏が野鳥撮影現場で「MONARCH HG 10×42」を使用して

「モナーク史上、最高傑作。」というキャッチコピーで登場したニコンの自信作「MONARCH HG」。42mmという大口径で、性能と価格のバランスに優れたモデルである。モナークとは一般的には「君主」という意味があるが、野鳥好きにとってはクロエリヒタキ(Black-naped Monarch)、昆虫好きにとってはオオカバマダラ(英名:Monarch)を連想するかもしれない。自然観察者にはピンと来るネーミングに好感が持てる。

僕は普段使いの双眼鏡として重さなどを考慮し、10×32や10×25といった10倍の小口径モデルを持ち出すことが多いのだが、「MONARCH HG 10×42」を手にとって驚いたのはその軽さである。ボディ素材にマグネシウム合金を使用しているため、堅牢かつ軽量に仕上がっている。もちろん軽いだけでなく、持ったときのバランスが良いので像がぶれにくい。とくに野鳥を探しながら撮影するときはカメラと超望遠レンズを三脚に据えた状態で歩くので、片手で双眼鏡を構えて操作することが多い。「MONARCH HG」は軽くてバランスがよいので、これなら撮影時に持ち歩いても苦にならないと感じた。

拡大写真を見る
野鳥を探しながら撮影するときはカメラと超望遠レンズを三脚に据えた状態で歩くので、双眼鏡を片手で操作することが多い。「MONARCH HG 10×42」は軽くてバランスがよいので、撮影時に持ち歩いても苦にならない。
拡大写真を見る
本体素材にマグネシウム合金を使用し、大口径ながら軽量かつ堅牢。本体内部に窒素ガスを充填したことで防水性が高いことに加え、光学系内部の曇りを防いでいる。「MONARCH HG」はワンランク上の質感と耐久性を備えた双眼鏡だ。

像の明るさとシャープさは気持ちよく、鳥たちの羽毛の細部まで観察できるのはもちろん、生き生きとした表情が手に取るように観察できる。とくに葉が生い茂った薄暗い林内や薄暮の時間帯の見やすさは大口径ならではで、これまで見えなかったものが見えることに感動した。耐逆光性能も高く、木漏れ日などで起こりやすいフレアなどの有害光も気にならなかった。特筆すべきは10倍で62.2度という見掛視界の広さはもちろんだが、視野の中心部のみならず周辺部の像までぼけや歪みがなく観察できることである。これは像面湾曲を光学系全体で適正化する「フィールドフラットナーレンズシステム」を採用しているからだという。全体的な質感も高く、手にフィットする表面処理やフォーカスリングの操作性も良好だ。

今や情報を頼りに有名撮影ポイントに足を運べば、誰にでもそれなりの野鳥写真が撮れてしまう時代である。最初はそれでもいいかもしれないが、常に情報に頼るスタイルでは写真表現に頭打ちが来るはずだ。細かい観察を積み重ねて撮影アイデアの引き出しを増やし、オリジナリティあふれる作品づくりのためにも、ぜひ「MONARCH HG」のような良い双眼鏡を使ってみてほしい。撮影前に双眼鏡でしっかり観察して良い作品を残すとともに、野鳥に迷惑にならない距離感を探り、野鳥撮影者のマナー向上に努めてほしい。

拡大写真を見る
よく茂った森の中に暮らすアカショウビン。極彩色の鳥といえども森林性の野鳥の発見は難しく、鳴き声を頼りに少しずつ距離を詰めていく。警戒しているかどうかの表情を伺うためにも、野鳥撮影には高性能な双眼鏡が欠かせない。
ニコン MONARCH HG
ニコン
MONARCH HG

» メーカーサイト製品情報

  MONARCH HG 8×42 MONARCH HG 10×42
倍率(倍) 8 10
対物レンズ 有効径(mm) 42
実視界(゜) 8.3 6.9
見掛視界(゜) 60.3 62.2
1000m先の視界(m) 145 121
ひとみ径(mm) 5.3 4.2
明るさ 28.1 17.6
アイレリーフ(mm) 17.8 17.0
最短合焦距離(m) 2.0
高さ (mm) 145
幅(mm) 131
厚さ(mm) 56
質量(重さ/g) 665 680
眼幅調整範囲(mm) 56-74