米津 光
Akira Yonezu
1956年徳島県生まれ。幼いころから絵画を描くのが好きで、大阪芸術大学写真学科中退後、独学で写真を学び写真家として独立。広告写真家として活躍するかたわら、日本写真家協会展入選('84、'86、'87年)、同奨励賞('85、'89年)受賞。また、日本広告写真家協会展入選('01、'02、'03、'04年)、日本観光ポスターコンクール銀賞('04年)など、先進的な作品でさまざまな賞を受賞。'05年からは風景作品にも取り組む。長時間露光によってとらえられた写真は斬新で、肉眼では見えない風景のなかに潜む「心を揺さぶる美」を印象的に表現する。その風景作品によって2008年キヤノンカレンダーの撮影作家に選出され、そのカレンダーは第59回全国カレンダー展において経済産業大臣賞を受賞。2008年1月にはキヤノンSタワーとキヤノンギャラリー銀座にて写真展を開催した。また、それらの作品を写真集『An Akira Yonezu Collection』で発表。日本広告写真家協会会員。徳島県在住。http://akirayonezu.v-co.jp/

米津さん撮影
カメラ:キヤノン EOS-1Ds Mark Ⅱ/レンズ:EF28-135mm F3.5-5.6 IS USM/マニュアル露出(F16、75秒)/ISO 100/WB:オート
早朝の西表島。雲と波が長時間露光によって肉眼では見えない表現になった

米津さん撮影
カメラ:キヤノン EOS-1Ds Mark Ⅱ/レンズ:EF28-135mm F3.5-5.6 IS USM/マニュアル露出(F32、61秒)/ISO 100/WB:オート
夕刻の西表島の海岸。この日は薄く雲があったため、やわらかな色調になった

米津さん撮影
カメラ:キヤノン EOS-1Ds Mark Ⅱ/レンズ:EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM/絞り優先AE(F14、1/125秒)/露出補正:+0.7EV/ISO 100/WB:オート
冬の北海道。凍った川の青みがかった色が魅力的だった

米津さん撮影
カメラ:キヤノン EOS-1Ds Mark Ⅱ/レンズ:EF28-135mm F3.5-5.6 IS USM/絞り優先AE(F11、1/40秒)/ISO 100/WB:オート
夏の北海道。雨雲によって暗くなった。そのなかで横一列に並ぶひまわりが印象的だった

米津さん撮影
カメラ:キヤノン EOS-1Ds Mark Ⅱ/レンズ:EF28-135mm F3.5-5.6 IS USM/マニュアル露出(F11、60秒)/ISO 100/WB:オート
いわゆる「燃えるように」でなく、少し控えめに赤く染まる紅葉が美しいと感じた
きれいな風景よりありふれた風景。そこに潜む見えない風景美を撮る
今回取材に行った西表島の地図
西表島は石垣島から高速船で約40分。年平均気温は23℃という亜熱帯の島は、沖縄県では本島に次いで2番目に大きいが、人口はわずか1,700人。島の90%は亜熱帯の原生林に覆われている。
「風景写真を撮りはじめてからまもなくしてここを訪れました。以来、年5回ほどのペースで訪れています。3年目になりますから、西表島訪問は15回近くになりました。仕事との兼ね合いもありますが、1回の滞在はだいたい5、6日くらいでしょうか。今回も6日間ほど滞在する予定です」
大原港(西表島の地図参照)までクルマで迎えにきてくれた米津さんとともに、海岸沿いの道路を走る。海岸線を走る道路の全長は55km。全周の1/3にあたる西側には道路がなく、船を使って移動しなくてはならない。
「おもな撮影フィールドは北海道と西表島です。北海道のほうも西表島と同じくらいの頻度で行っています」
海の間近まで森が迫る。人の居住する区域は見当たらず、人の気配を感じさせるのはときどき見える古代米の田んぼだけ。あきらかに人間より自然の気配が勝っている。その緑にあふれた風景のなかをふんわりとした亜熱帯の空気が漂う。そのせいなのだろうか。時の流れも格別にゆったりと感じられる。
「ここに来ると毎日、日の出前に撮影現場に行きます。まだ暗いうちに運転するわけですが、いままで2回、道路の真ん中に人が寝ていたりして、本当に驚きます」
西表島では流れる空気や取り巻く自然と同じく、人もまた、おおらかなのだろう。
「朝いちばんに撮影に来るのはこの前良川(まいらがわ)が多いですね」
島の東側を北に向かって、前良川の河口に架かる橋を渡りながら、米津さんがいう。
潮の混じる汽水域にマングローブが点在している。マングローブとは亜熱帯や熱帯の河口や潮間帯に生えるメヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギなどのヒルギ科の木。西表には川が多く、その河口にはだいたいマングローブ林があり、海に向かってヒルギの木が点在しているのだ。
「キヤノンのカレンダーにもここで撮影した写真が入っています。あのときはちょうどいい場所にマングローブを植え込むのがたいへんでした(笑)」
植え込んだ、とは米津さん流の冗談だが、その写真はまさに意図して植えつけたとしか思えないほど。水平線を手前にした理想的な位置に形のいいヒルギが1本浮かんでいた。
キヤノンカレンダーは2008年分から公募されるようになった。公募は2005年からはじまり、撮影者が決定するのが翌年。それから1年にわたって撮影が行われるのだが、米津さんはその第1回目の写真家なのだ。
「応募したときは風景を撮りはじめて半年しか経っていませんでした。正直、最終選考に残るくらいの自信はあったのですが、私の作品は普通の風景写真と違うので、最終的には選ばれないだろうと思っていました。それを選ぶなんて、キヤノンも目が高いと思いました(笑)」
これもあくまで冗談。じつのところ、米津さんは本当に謙虚だ。謙虚で実力があるからこそ、ときにそんな冗談で笑えるのだ。その米津さんカレンダーは全国カレンダー展で最優秀の経済産業大臣賞を受賞している。
「それまでは4×5カメラで広告写真を撮っていたのですが、合成なしの一発で『どうだ!』という写真を撮っていました。でも、パソコンが出てきたときに、これからは方向性を変えて、もっと素直に撮って、いい写真に路線を変えないといけないと思いました」
その広告写真は、フルーツが水に落ちた瞬間であったり、テーブルに重ねたお皿が宙に舞ってそこから床に卵が落ちていく途中の写真など、「どうだ」といわれなくとも「恐れ入りました」という写真ばかり。広告写真でも米津さんは数々の賞を受賞している。パソコンで加工や合成ができるようになったとはいえ、昨今でもこんなみごとな写真は見たことがない。
「風景を撮ろうと思ったときに、有名な景勝地や、多くの人が撮っているきれいな景色は撮りたいと思いませんでした。地元で撮っている人にはかないませんし、それに負けるのも悔しいじゃないですか(笑)。撮りたいと心が動かないこともありますが、ありふれた風景のなかに存在する気づかない風景美を残したいんです」
風景写真をはじめて半年でカレンダー作家に選ばれたのも、広告写真で培われたアイディアやテクニック、そして、ほかの人には見えない風景のなかに潜む美を感じ取る感性があったからなのだろう。米津さんの作品を見ていくとその圧倒的な美意識と表現力がよく理解できる。