「ヴィーナスフォートのクリスマス」
東京のお台場にあるヴィーナスフォートのクリスマスイルミネーションですが、なかなか華やかさのなかにもスケールの大きさがよく表現されています。1枚写真だとこうは表現できませんが、パノラマソフトのなせる技でもあります。最近は、パノラマソフトによる写真の応募が増えてきましたが、いかにソフトを駆使しても作者がなにを表現したいのかという、テクニック以前の被写体に対する着眼点ですべてが決まってくると思います。その意味では、杉浦さんの作品は冷静沈着にして、ここを訪れるみなさんの感動を忘れることなくダイナミックに表現したことが成功しています。
「金粉舞踊」
ショーの写真は、演技している人を中心にねらうか、周囲も取り入れて雰囲気を見せながら表現するかとふたとおりに大きく分かれてくると思います。この写真は後者ですが、演技をしている人たちがバランスよく配置されています。さらに、動きや表情もいい瞬間をねらっています。そして、見物人の取り込み方もいいのですが、こういう写真が今後は肖像権やプライバシーを盾にされて発表しにくくなってきそうな予感もあり、心配しています。
「ザリガニを食うカルガモ」
カルガモはどこにでもいる大衆野鳥ですが、大きなザリガニをダイナミックに食べています。しかも、ザリガニのハサミが空中に舞っているところもスゴイです。野鳥写真といえばかわいらしい、珍しい、美しいものばかりを表現しがちですが、このように誰も見向きもしない生命にもちゃんとシャッターチャンスはあるものです。これは、ネイチャーに限らず風景やスナップなど、どの分野にもいえることを再認識させてくれる写真のお手本です。
「人間観察」
毎回、ネコの写真はたくさん応募されてきますが、これほどネコの心を表現している作品は珍しいです。とにかく、ネコの視線がとてもよくて、まさにタイトルどおりだと思います。この視線は部屋のなかで飼われている軟弱なネコのものではなく、野生の目そのものです。ネコを撮影表現するのに、新しい視点が加わった1枚だと思います。
「棺に入りたくなくて…」
捨てられた自転車に、ゴミとともに外来種のホテイアオイがひっかかっています。繁殖力の強いホテイアオイはこうして日本の生態系を変えていくので、地域によっては移動禁止にしています。リンゴの存在や薄汚れた川の水と底など、いまおかれている現代社会の環境を重く語る、いい視点をもった写真です。
「満載」
アルミ缶をこのように満載した自転車をよく見ますが、撮影がきちんとされてないようです。ホームレスの大切な収入源が、大都会から少しずつ地方に展開されている風景にもなっています。まさに今日の時代の証言ともいえる写真ですが、ちょっと明るくさわやかにまとめすぎてしまいました。このテーマは、まだねらっていけるハズ。
「海」
海を表現していますが、ここでは「セイタカアワダチソウ」で海を語っています。セイタカアワダチソウは外来植物で一時期いろんな意味で話題になりましたが、まだ、こんなにも群生しているところがあるのも驚きです。しかもチガヤのような植物がミステリーサークル状に寝ているのも暗示的で社会性のある「海」が表現されています。
「ミッドナイト・ハイウェイ」
バンコクの中心街だそうですが、俯瞰するとこんなにもイルミネーションが豊かだとは驚きです。夜が燃えているところは東京とニューヨークが激しいと、ランドサット映像でいわれたのは過去のこと。こうして地球上が焦がされると温暖化も納得できます。空の部分がちょっと多すぎて、全体の締まりを欠いてしまったのは残念です。
「窓」
山村農家を模した建物の窓にブドウの蔓が巻きつき、とてもおしゃれな写真です。背景に人物を入れたのもよかったです。一幅の絵画を見るように心がなごむのも、ねらいが的確だからなのでしょう。
「初冬の季」
山梨県の甲州市では干し柿のれんが風物詩になっているようですが、色合いがとても美しく仕上がっています。柿だけをねらっていますが、ワイドレンズで大接近して環境を入れながら初冬を表現してみてもよかったです。
「夕暮れ線路の秋」
北海道の単線線路だそうですが、美しくノスタルジックな風景です。色も晩秋の表情をよく表していますし、なによりも線路が続く構図が決まっています。このような風景のある、日本という国の自然のすばらしさを再認識できます。
「星眺の乙女滝」
長時間露出の名手でもある宮坂さんの作品は、空に星がうまく配置されているので落ち着きます。流れる滝は霧のように当然曇りますが、空に星があるから、木々や雲といっしょに自然の寒々しさが出て、神々しくなるのです。
「コンビナートと街」
夜のコンビナートと街をパノラマソフトを使ってダイナミックに表現されていますが、すでにこの視点での作品は優秀賞になっています。作品がよくても、同じような視点では選者としても上位に入れられないのですよ。さらなる切り口の工夫を期待します。
「すれ違い」
写真とタイトルが、どうしても結びつきません。撮影者だけがわかるタイトルづけは、作品表現上やっぱりマイナス面は大きいと思います。それ以上に、この子の涙があまりにもかわいらしいものでしたから選びました。
「昼顔」
撮影会でのひとコマなのでしょうが、ハイキーに仕上げてあって好感のもてるさわやかさがあります。しかも、モデルのシルエットもきれいですし、表情まで見えるようです。作者の意図した表現は、まずは成功したのではないでしょうか。
「白い記憶」
シロハヤブサはファンにとってはあこがれの野鳥らしいですが、これは飛び立つ瞬間を合成して一枚に仕上げたものです。むずかしい注文かもしれませんが、選者はそろそろ珍鳥ねらいから脱却した野鳥写真を見たくなりました。
「風船ジャンプ!」
風船を使った大道芸のようですが、いったいどうやって浮いているのでしょうね。不思議な写真ですが、風船中心だけでなく地面の影や靴がいい味をもってますので、影などの取り入れ方を工夫するともっとよくなったでしょう。
「What happen?」
ウエイクボードという水上スポーツはまさに若者のスポーツでダイナミックそのものですが、楽しんでいると思ったらかなり真剣な表情をしていますね。高速シャッターでこうした動きを止めるテクニックは大したものです。
「蜘蛛」
ハエトリグモは目玉が大きいので、顔をクローズアップすると写真にしやすいものです。こうして大迫力で小さな昆虫の表情を探ると自然界の造形美を再認識できますから、もっと応募が増えてもいいと思います。
「Extreme wet」
この写真を選んで気づきましたが、これに似たのを以前にも選んでました。やはり、雨のレースは迫力があって似合うからなのでしょうが、同じような作品になりがちなところから脱却する新しい視点の工夫がほしいものです。
「狩り成功! 」
水族館で飼育されているペンギンですが、魚をもらって得意になっている表情がいいです。しかも、水面に反射する光が効果的。さらに、余分なものを排除して、ペンギンだけに構図を絞り込んだのも成功しています。
「青空お散歩してみたい」
青空の下に長靴が干されているユーモラスな風景が意表をつきました。左にあるガスタンクがうまく処理できると現代の家庭菜園らしさがもっとでて、食へのこだわりまで見えるのではないでしょうか。
「イグアナの微笑み」
沖縄こどもの国の福祉祭りでのひとコマだそうですが、イグアナに超ワイドレンズで迫って背景に人物を入れたアングルが斬新です。イグアナをもう少しアンダーぎみにレタッチするなどして鋭さをだすと、もっと迫力が出たはずです。
「川のお掃除」
ヤマセミといえば水中に潜って魚を捕まえる野鳥なのに、棒切れをもってます。野生の一瞬の時間にこのような行動をするのも不思議ですが、タイトルもふるっています。野鳥写真にはこうした心の余裕が必要なのですよ。
「見物人」
なにを見物しているのかの説明がないのでわかりませんが、人間の表情ほどおもしろい被写体はないということを物語る作品です。いい写真なのですが、微妙なカメラぶれを起こしており、基本的なツメの甘さを感じます。
「秋風に吹かれて」
このような花などを扱った作品は毎回たくさんの応募がありますが、なかなか入選までには至らないものです。しかし、この作品はハーフトーンの色合いが美しく、やさしさのなかにも構図が安定しているところがいいのです。
「くらげの海」
エチゼンクラゲは、日本近海の重大ニュース。温暖化や環境悪化で異常発生したといわれていますが、こうしていま撮影することに意味があります。PLフィルターを使ってもっと水中を写し出し、背景に現代を感じさせるような船でもあると完璧なのですが。
「西日を浴びて」
新潟県十日町市の紅葉だそうですが、山並みの重厚さがいいです。手前に濃緑の杉木立が入っているので、画面を安定させました。雪国の一瞬の季節に見られる、こうした日本の原風景は、自然の豊かさをよく表現しています。
「金色の霧雲」
九重連山での撮影だそうですが、山のもつダイナミックさがうまく表現されています。最近はこのような山岳写真をあまり見ませんが、ガスと金色の光とどっしりとした構図の妙が重なり合って成功した一枚といえます。
「晴れ姿」
子どもの表情がいいです。スローシンクロで動きも出ていて、臨場感もあります。それでいて、背景にはいま流行のノンバンクのネオンサイン。この子どもの晴れ姿には、現代というカオスな時代がじつによく写しこまれています。
「戦争の爪跡」
見渡す限りの「戦車畑」ですが、撮影地がサイパンなので旧日本軍のものでしょうね。ダイバーが写り込むことでスケールの表現ができていますが、ここにも死者がいたと思うと複雑な心境になりました。
「夏の名残」
この日差しは夕方でしょうか、なかなかいい色みです。さらに、手前のS字形に流れる川の取り入れが構図的にも安定させていて、タイトルを際立たせています。家族のスナップもこのように撮ると、すばらしい記念となります。
「幽玄の舞」
どのような祭りでなにを表す神楽なのかの説明がないのでわかりませんが、面がとても穏やかでいい表情をしています。スローシンクロも神霊の神々しさをよく表し、表現テクニックの巧さを存分に見せています。
「蜃気楼」
神秘的ななかにもモダンが漂う強い印象の作品です。こういう現場にさしかかると一瞬の判断で撮影しなければなりませんが、構図的にも落ち着いてまとめあげています。一方であまりにも決まりすぎて、逆にもの足りなさを感じます。
「おんぶ」
犬は飼い主に似るといわれますが、吹き出してしまうほどによく似ていますね。以心伝心、お互いに信頼しきっているからなのでしょう。右に写る電柱の黄色いカバーがけっこう目障りで、視線がどうしても流れてしまいます。
「ルミナス神戸2」
つい半世紀前まではこのような近未来的な風景は想像もできませんでした。しかし、現実にこうして存在しているのですから、まさにデジタル時代で現在を記録する意味でもオモシロイ被写体だと思います。
「シルエット」
シンプルな表現に終始して、いいカンジだなぁーと全体を見ながら恐竜の顔に目をやると、なんとも情けない表情に笑えました。ありがちな写真ではありますが、影をよく計算しているところがいいのではないでしょうか。
「夜の虚無僧」
全国から集まった尺八愛好家が虚無僧に扮しているところをストロボなしの微弱な光での撮影。技術的には完璧だと思いますが、上部の屋根のところでカットして下にカメラを振ると、虚無僧の「影」がさらに強調されます。
「よさこい踊り」
札幌のよさこい祭りは有名ですが、この踊りはどこで行われているのでしょうか。踊り手の動きの瞬間といい、背景を簡略化して大胆に切り取ったところが力強い作品になっています。踊り手の表情も、なかなかいいですよ。
「柿の工芸」
まさに柿の葉の芸術作品だといえます。雨のなか、そのままでは背景が煩雑になるということで、黒布を敷いて水滴がこぼれないように移し、葉のテカリなどにも気をつけて撮影したとのこと。どんな天候でもどんな状況でもその現場でできる限りの工夫をこらして、これだけの作品に仕上げていく感性はとてもすばらしいですね。最初はスタジオでライティングをして撮影したものかと思いました。それほどクオリティの高い作品です。感性の豊かさと機転のよさに文句なしの優秀賞といえます。
「喝采」
まさにタイトルどおり喝采の状況をよいタイミングとよい場所で切り取った作品といえます。2階の窓辺に艶やかな色の敷物を敷き、観客が皆浴衣を着て楽しそうに手を振っている場面と、キリリとした表情の男性が浴衣を祭り仕様に着こなしているさまはとても対照的で、日本の伝統的な祭りの粋さを感じさせます。トリミングありということですが、センスのよさを感じます。本来もう少し鉾を入れたいところでしょうが、そうすると主役がぼけてしまいます。さすが四方さん、なにを伝えたいかがよくわかります。
「yuki」
最近の清水さんの作品がレベルアップしてきているように思います。いろいろなことを見たり感じたり研究したりと、積極的に挑戦しているのではないでしょうか。この作品も伝統的な日本家屋の畳の部屋と、モデルの大胆なポーズのアンバランスさがおもしろいと思います。固定概念にとらわれず、この調子でどんどん撮影してください。きっと、もっともっと清水さんらしい作品が撮れていくと思います。
「at 9pm」
上原さんの作品からは、ほかの人には出せないオリジナリティが感じられます。モデルの表情も、この年齢の危うさがよく引き出せています。ロケ場所は日常彼女が通い慣れたところでしょうが、撮影時間がうまく計算され、蛍光灯のグリーンかぶりの色も彼女の危うさをより強調していると思います。アングルやポーズ、光の読み方、どれをとっても抜群のセンスのよさを感じる作品だといえます。
「幽玄」
まるで絵のようで情緒のある作品ですね。手漉きの紙を使い周囲を手で裂くなど、努力のかいがありましたね。いろいろなニュアンスのあるインクジェット用紙が開発されたことによって、作者の表現の幅も広がってきたのではないでしょうか。カラープリント投稿部門の場合、作品と紙との相性のバランスも審査の対象として選んでいくわけですから、どの紙にプリントするのかも大切なことといえます。
「休憩」
またまた1作品での勝負。潔いですね。すばらしい作品です。街角でのスナップショットなのでしょうが、着目点、アングル、切り取り方、どれをとっても本当にセンスのよさを感じます。雨が降っているので椅子には誰も座ってはいませんが、タバコの吸殻が普段ここでくつろいでいる人間を想像させます。毎回、鋭い着目点での投稿を楽しませていただいています。
「City Traffic」
おもしろい作品ですね。夜の高速道路の写真は、ありふれた作品に仕上がりがちですが、岩本さんは金網越しに撮影することで、光に金網の一部を写り込ませたおもしろい効果を出しています。シャッタースピードとの兼ね合いもよいですね。撮影をしながら仕上がりをチェックできる、デジタルカメラならではの作品だといえます。
「オータムブリッジ」
イチョウの葉がつながって見えるようにワイドレンズで撮影したとのこと。みごとです。ただぼんやりと歩いていただけでは発見できないですよね。これを撮影するにはつながって見えるようにアングルを探さなければいけません。後処理で加工することはできますが、写真の基本、シャッターを切るときの感性を鈍らせないことがとても重要です。
「待ちわびた電話」
アズマさんの作品が毎回コンスタントに残ることはすごいことだと思います。こうした撮影には労力と時間とお金が必要です。そのことに関しては尊敬すら覚えます。しかし、最近の作品は絵柄としてはおもしろいのですが、シチュエーションにこだわりすぎていて、そちらのほうに気が行き過ぎているように思います。思いや感動は写真に宿ります。どうかそのことを思い出して撮影してみてください。そうしたら怖いものなしですよ。
「憧憬の路」
心安らぐ作品ですね。4,000本の竹灯籠で町並みは照らされ、格子窓や瓦屋根がほのかに包まれていたということですが、人間はこのような優しい光にとても心癒されるものなのだと思います。スイッチひとつで明るすぎるくらいの光がこうこうと照らす便利な世のなかですが、いま一度、環境にも人にも優しい生き方を考えなくてはと、考えさせられます。
「可愛い見物人」
画面手前で拍手する女の子、チアガールとポール・ラッシュ博士の写真。遠景には富士山となんとも不思議な組み合わせがおもしろいですね。清里のために尽力したことで有名なポール・ラッシュ博士ですが、まさか後世になってチアガールが美しい高原のどまんなかで踊りまくるとは考えなかったでしょう。作者の視点のおもしろさにはいつも感心させられます。
「ダンス!」
カメラのアングルを下げ、さらにカメラを傾けて撮影したことが、ダンサーの動きを表現するのにぴったりだったと思います。おかげで祭りの躍動感がよく伝わってきます。なにより、踊り手が楽しそうにしているところを着実にとらえているのが気持ちがいいです。
「兄弟」
少し古い時代のレコードレーベルのようにも見えますね。兄弟ということですが、高コントラストの写真は生活感を演出するのにはいいでしょう。地元の伊勢和紙を使ったプリントもこうした演出効果を考えるとプラスに働いており、よいと思います。
「Morning Light」
色っぽいですね。それも大人っぽい感じがいいです。逆光のなかで、画面の上から下にかけて、徐々に服やシーツのトーンが変わっていく様子は、作者に光が見えているという力量がうかがえます。どこか時間を生み出しているような、時間の流れが感じられます。
「夕暮れのやな」
よくある写真誌のコメントだと「左右の余白が均等なので、日の丸写真にならないよう余白の処理を考えましょう」などと書かれてしまう作品かもしれません。しかし、おばあちゃんと娘さんの関係がよくわかるこの写真は、そうしたフレーミングの甘さを感じさせない、強さを感じます。
「元気が出る宴会の一コマ」
サル本人に見せると「頼むから嫁と子どもには見せんといてくれー」と頼まれたそうです。ノリノリで楽しんでいる臨場感がよく伝わってきます。サルの素性は奥様にとっくにばれているような感じが見受けられ、とてもステキな写真だと感じます。
「京平」
年配の方で、見た目が若々しくみえるという方もいますが、逆に子どもなのにどこかおじさんのような印象を受けるとか、年を重ねたときの顔が想像できるということもありますよね。もちろん、愛らしい感じで好感がもてるという意味ですが、この子どものおじちゃん顔はとても好感がもて、僕はとても好きです。
「馬上の友」
シャッタースピードを遅くして少年と馬だけを止めて、ほかをぶらしてしています。このことにより煩雑な背景が整理され、とてもいい効果を生んでいると思います。ぶらしすぎず、ぶれなさすぎず気持ちのよいカットに仕上がっています。
「肌」
名古屋からの投稿作品に、金粉ショーを題材にしたものは、よくありますが、アップにしてフォルムで見せたり、金粉や汗の感じを見せたりという工夫があり、作者の写真はなにを見せるかを選んでいる点が評価できると思います。
「こ の 指 と ま れ」
子どもの気持ちがよく伝わってきますね。下からあおるように撮影されているので必然的に暗部が多くなります。利用されている用紙は暗部の階調を出すのがむずかしい紙ですが、ギリギリのところでよく出していると感じました。
「Movement」
ブナ林は新芽の時期もきれいですが、葉を落とした秋も本当に美しいですね。この写真は力強いブナの木を象徴的にとらえています。晴れていると空のトーンを残すのがむずかしいアングルですが、微妙に残しているところも奥行きを感じさせてくれ、とてもよいと思います。
「秋空の丸池」
ブルーチャンネルのトーンカーブを調整することで、コントラストをつけ、パキッとした強い調子に仕上げています。モノクロで硬調に調整する方法はいくつかあるのですが、空のトーンを出すという点では、ブルーチャンネルでトーンを調整したのは成功していると思います。
「秋日和」
3枚組みの組写真を、タテの視点にこだわってまとめてくれました。それぞれ、画面内をタテに伸びるものにプラスアルファの要素が加わっています。1枚目の銭湯の煙突は、よく見るとサルのようなオブジェが梯子を登っています。ユーモラスな雰囲気に思わず吹き出してしまいました。また、3枚目の電柱にはなぜか傘がぶら下がっています。なぜ? と思いつつも、おもしろい被写体を探し出した保坂さんに脱帽です。写真一枚一枚のバランスもよかったと思います。次回は、全体でよりインパクトのある作品を期待します。
「水中ダンス」
水族館のいろいろな生物をレンズワークで切り取り、モノクロでまとめたことが目を引きました。水族館の写真は幻想的な雰囲気をカラーで表現した作品が多いのですが、縞模様の魚やクラゲ、カニなど色が派手な被写体をモノクロ化しています。その決断力が、今回の入賞につながったといえます。また、被写体を画面いっぱいに収める正方形のフォーマットで、安定感を出したのも効果的でした。モノクロにまとめただけに、被写体のおもしろい動きが表現されていると、さらによかったと思います。
「みなしご」
この作品は、作者のセンスのみをシンプルに打ち出したものとなっています。写真のなかの要素を徹底的に減らしていったもので、ほかの組写真に比べて際立って見えました。テーマは構図のみ、という単純明快さで、2枚目のブロックはとくに印象的です。また、3枚目でこちらに歩いてくる紳士が、むしろ浮き立ってみえます。それだけに、1枚目でインパクトが弱かった点が悔やまれます。後ろ姿の犬だけではなく、なにかもうひと工夫ほしかったと思います。
「落ち葉」
さまざまに色づいた秋の落ち葉ですが、背景を3パターンでみせてくれたのは、組写真ならではの発想だと思います。1枚目、苔の緑色の背景に、黄色と赤の葉の形が際立っています。2枚目、水面を彩る落ち葉と水のなかの落ち葉、そして、水面に映り込む青色が印象的です。最後を地面に散らばる赤い落ち葉で締めたのも効果的でした。ただ、素材がみな同じようなものだっただけに、写真に変化が乏しくなってしまいました。そこが次回の課題でしょう。
「きのこの森」
キノコという、撮影がなかなかむずかしい被写体を素材に、アングルにも工夫して撮っています。ただ、さらにアングルを工夫することでキノコの不思議な世界を見せてほしいところでした。撮影場所は光がほとんど当たらないところだと思いますが、この表現が限界とも思えません。もうひと味のスパイスを加えたいと感じました。
「威嚇」
応募作品のなかで犬や猫を被写体としたものは多く、そのほとんどはかわいらしく写されています。そんななかでこの作品は、大袈裟にいえば猫が本性を表した瞬間をとらえたものとして、ほかの作品とは一線を画しています。顔を画面いっぱいにしたのが、見る者にいまにも迫ってくるようで、非常に強いインパクトを与える結果となりました。さらに1本だけになった牙や舌の部分がじつにリアルで、これもふだんは見ることが少ないシーンです。とにかくシャッターチャンスとフレーミングのうまさでみごとな作品に仕上げています。
「そ~っと」
息を止めて静かにゆっくりと手を伸ばし、赤トンボを捕まえようとしている表情がなんともかわいらしいです。なにかを語りかけているかのような口元の動き、そしてトンボへの視線、慎重に近づける指先など、細かい部分がよいタイミングでとらえられています。光線状態もよく、手や顔にやさしい丸みを与えています。近づいて上半身だけにしたフレーミングも訴える力を強くしているし、バックのぼけぐあいも美しくてよい雰囲気を出しています。
「幸福のおすそわけ」
なかなかおもしろい発想です。本来なら式を挙げたふたりの顔が見えるように撮影するところですが、それをあえて傘で隠し、取り巻いているカメラマンたちの表情や動きに視線が向かうようにしています。赤い傘も活きていますね。
「PURE」
純白のウエディングドレスがやわらかな光を透かした白のカーテンと絶妙のマッチングで、この女性をより美しく、そして幸せそうに描写しています。表情も自然でよいです。そしてこの画面の広さが独特の雰囲気を醸し出しています。
「魔の手」
花火はベテランでなければ撮影意図どおりの仕上がりを得るのはむずかしいです。しかしこの作品は画面のどの位置にどれぐらいの大きさで花火を配したらベストなのかを十分に計算しています。
「ロック・オン!」
コスモスにやって来たハチですが、花粉をつけた顔、そして花粉球を抱えた足がじつにシャープに写されています。ピントも目にしっかりと合っているので、このハチの感情までもが伝わってくるようです。フレーミングもみごとです。
「コスモス畑で」
本来なら自分と同じ色のなかに身を潜めているべきなのに、もっとも目立つ色の上に止まっています。これによってクモの存在感が大きなものとなっています。ピンクのぼけとの組み合わせもよく、かわいい作品になりました。
「干し柿」
柿もこれだけの数になると、ひとつの造形物となり、食べ物とは思えなくなってしまいます。画面全体を柿色で統一したため、数の多さにもかかわらず、簡潔な印象を与える作品となりました。ほどよい光が射し込んで、柿に立体感を与えています。
「秋の音」
白樺林のなかでこの紅色は強い印象を与えます。非常によい撮影ポイントを見つけられましたね。画面に空を入れず林の木々だけで埋めたのも、この紅葉を際立たせるのに有効です。ただ画面右端の白樺はカットしたほうがよいと思います。
「紅色のおうちで」
花のなかにいるシジミチョウがかわいらしく写されています。主役であるチョウの大きさと取り囲む花のバランスも非常によいですね。またフレーミングも不要なものをすべて排除してシンプルな画面を心がけたことが成功しました。
「RAINY GP」
雨のなかを疾走するF1マシン。流し撮りですが非常にうまく追い続けているので、レーサーだけが静止して、ほかは優美に流れています。タイヤから上がる水煙が臨場感を与え、狭い画面から水を切る音が聞こえてくるようです。
「鯉」
なんとも不思議な作品です。グリーンのなかを泳ぐ鯉がメルヘンチックに描写されていて、まるで絵本のなかから抜け出てきたかのようです。この独特のグリーンが非常によい雰囲気を出していて、作品をすばらしいものにしています。
「赤い散歩道」
作者がシルエットになって、よい風景のなかで撮影されています。この景色だからこそ作者の長い影がよい雰囲気になりました。タテ位置構図は成功ですが、空はカットしたほうがよいでしょう。
「あーら何か御用?」
なかなかよいアングルから写していますね。少しでも角度が違うとこのようにユーモラスな作品にはならなかったでしょう。なんともいえない猫の表情が笑いを誘います。ただフレーミングについては、もう少し近づいて大きくとらえるのがよいでしょう。
「嵐が運んできた秋」
選者にとっては子どものころに親しんだ懐かしくて、愛しい風景です。風の音だけが流れてゆく静かな里の情景が非常に美しく描かれています。ただ、山とソバ畑を画面中央で二分割せず、どちらかが広く(1/3ほど)占めるようにするとよいでしょう。
「映」
おそらくこの一角以外は近代的なものであふれているのではと推測します。それらを排除しながらノスタルジックな映画のポスターと木枠、それに植物だけをフレームに入れて、その当時の匂いを感じさせる作品に仕上げています。
「朝陽を浴びて」
グリーンと赤の組み合わせが絶妙です。この広い画面のほとんどを占めるグリーンのなかで、主役のトンボは片隅に小さく配置されています。しかしこの赤の存在感は絶大で、けっしてグリーンには負けていません。なかなかよく考えて構成していますね。
「秋の乗鞍」
美しく色づいた山が透き通った空気のなかで輝いています。なかなかよい状態の風景を見つけたものと感心させられます。バックの青い山との対比もベストで、この山だけが浮き上がって見えます。そして画面下部の真っ赤な1本がよいポイントになっています。
「朱色の秋」
紅葉と流れが気持ちよく写されています。紅色は静止して白色が動いています。まさに静と動の世界がこの小さな画面のなかに存在しているのです。広い風景のなかからもっとも美しいと感じた一部分だけを切り取って、日本の秋を表現しています。