デジカメエキスパート 虎の巻

写真を知る ― 過去の名作~現代デジタル写真

スナップショット

スナップショット1  FILM 
アンリ・カルティエ=ブレッソン
1932. FRANCE. Gare Saint Lazare.サン・ラザール駅
©Henri Cartier-Bresson/Magnum Photos Tokyo
Check Point
「決定的瞬間」という言葉の代名詞となった、アンリ・カルティエ=ブレッソンの代表作。水たまりへの映り込みによって上下に分割された画像が一対になり、ジャンプする人物とポスターに描かれた、そのちょうど反対向きで同じポーズのイラストがある。またそれを見ている、柵のまえの人物など、いくつもの対称なかたちがあり、ほぼ完璧に近い調和を満たしている

スナップショット2  DIGITAL 
ハービー・山口
Photo:Herbie Yamaguchi
Model:緑川英徳(saxophobia)
Atelier E.A.U. 「musictide」より
Check Point
ミュージシャンを撮り続けてきた写真家が、どこかのバーで出会ったまだ若いミュージシャンを愛情にあふれた眼で見ている。脇に置かれたアップライトピアノや壁に貼られたポスターと、こちらに背を向けてサックスを吹くミュージシャンとを対比させた構図。また、ちょっとしぶい店内のようすが、じつにいい雰囲気をかもし出している

スナップショット3

 DIGITAL 
ハービー・山口
Photo:Herbie Yamaguchi
Atelier E.A.U. 「musictide」より
Check Point
バーのカウンターに並んだ瓶の前に、さり気なく置かれた女性ミュージシャンのポートレート。写真のなかにこうして写真が登場すると、一瞬ドキリとするものだ。これが演出かどうかはわからないが、スナップショットといえども多少の演出は許容される。さまざまな撮影現場に対応できる頭のやわらかさが必要なのだ

スナップショット4  DIGITAL 
元田敬三  Photo:Keizo Motoda

スナップショット5  DIGITAL 
元田敬三  Photo:Keizo Motoda

スナップショット6  DIGITAL 
元田敬三  Photo:Keizo Motoda

スナップショット7  DIGITAL 
元田敬三  Photo:Keizo Motoda

Check Point
さまざまな種類の人間が集まり、アクシデントに遭遇することもある都心の繁華街は、スナップショットの絶好の撮影ポイントとなる。なにより想像力をかき立てる被写体に出合ったら、まずはシャッターを切ることが重要なのだ。また強烈で目立つ看板の文字なども背景としておもしろい。この写真家はフットワークのよさを生かし、そんな現代のエネルギッシュな側面を浮かび上がらせている

スナップショットとは

ある対象の一瞬の表情をすばやくカメラで記録することを、スナップショットという。写真撮影の基本的な技法のひとつとして、ドキュメンタリーや肖像、あるいは広告やファッションなど幅広いジャンルで使われているが、ひとつのジャンルとしても独立して認知されている。
スナップショットの登場は、フィルムの感度が上がり、カメラが小型化される1920年代。とくにライカやコンタックスといった35mm判フィルムカメラの登場によるスナップショットの発見が、写真表現を決定的に変えた。
撮影機材の発展によって、写真家のポジションが飛躍的に自由になり、構図のバリエーションが増えたのだ。そして被写体がカメラを意識する前に、数百分の1秒という速さでその自然な表情をとらえることが可能となった。
その後、写真の歴史には何人もの優れたスナップショットの名手が登場してきた。なかでも有名な「決定的瞬間」という言葉を作ったとされるのが、アンリ・カルティエ=ブレッソンである(じっさい彼がいったのは「すり抜けるイメージ」というものであった)。彼はフォトジャーナリストとしてロバート・キャパとともに活躍したが、それ以上に人々の日常にある、それまで誰も気づかなかった美しい瞬間を次々と写真で見いだしていった。
日本人では木村伊兵衛が、やはりスナップショットの名手として知られている。東京・下谷の下町で生まれた木村は、戦後の日本人の日常をみごとにとらえてる。また戦後といえば、日本のカメラ産業が盛んになり、多くのアマチュア写真家がスナップショットを楽しむようになっていった時代でもある。
しかし今日では、かなり事情が違ってきている。被写体に気づかれずに写真を撮った場合の表現が、被写体の肖像権に抵触する可能性が指摘されてきたのだ。有名人やキャラクターは例外として、基本的には、人物を風景の一部分として撮影していれば、写された人に著しく特定の不利益を与えない限り、肖像権の侵害にはならない。しかし、商業メディアではスナップショットの作品を掲載する場合、不要なトラブルを防ぐ意味で、写されたすべての被写体からの承諾を前提とするケースが多い。スナップショットを楽しむのに、あまりよい時代とはいえない。