自然や動物をテーマにする写真家は、つぎのふたつのことを基本に考えてきたように思う。ひとつは撮影の対象を科学的に見ることであり、もうひとつはその対象を目の前にしてわき起る感情を、美しく表現することだ。
科学的に見るとは、肉眼では見えない事象を写真で表現するという意味である。たとえばある山脈の地形、植物の構造や動物の筋肉の動きなどは、写真によってはじめて多くの人にもイメージできたことである。また、そのために多くの撮影機材やシステムが発明された。そのひとつが写真家の栗林慧が1998年に発明した虫の目レンズだ。これは医療や建築模型に使う内視鏡を利用したレンズを改造してデジタルカメラに装着したもので、この機材によって鮮明でリアルな昆虫の生態撮影が可能になったのだ。
さらに私たちが自然について、どのような思いを抱いてきたのかを知っておくのも大切なことだ。遠い昔から人間は自然の存在に神秘的なものを感じ、自らの営みと結びつけてきた。たとえば富士山という名前には「不死」という意味もあり、そこに日本人がこの山をどう眺めてきたのかという自然観をかいま見ることができる。
前者は自然科学、後者は人文科学からの自然についての見方である。こういった科学的な理解に加えて、写真家が撮影対象から直接に受けた感動や印象が大切なのはいうまでもない。
では、自然や動物を撮影するうえで大切なことはなにかといえば、まずは準備である。機材の準備はもちろん、自然のなかでは撮影のための足場が確保しがたいこともままある。また気紛れな天候の変化や予測できない動物の動きから、絶好のシャッターチャンスが来るまで、何日も待つことも考えられる。
そういった多くの苦労をしながら撮られてきた自然についての写真は、私たちの生活と密接にかかわり、その重要度はますます大きくなってきている。たとえば自然破壊や環境汚染とはどういったことで、どのような影響がもたらされているのか。そういった現実とともに、私たちの自然観に根ざした美しいネイチャー写真は、次の世代に手渡すべきものがなにかを考えさせてもくれる。