デジカメエキスパート 虎の巻

写真を知る ― 過去の名作~現代デジタル写真

ネイチャー

ネイチャー1  DIGITAL 
前川貴行  Photo:Takayuki Maekawa
Check Point
ニホンザルの親子であろう。仲よく身を寄せあってはいるが、カメラのほうを警戒するようにじっと眺めている。野生動物を相手にする写真家は、どこまで相手の領域に踏み込んでいいのかをよく知らねばならない。もし相手を警戒させれば、追い詰めることになり、自分の身が危険になる可能性もある。写真家はギリギリの地点からレンズを向け、シャッターチャンスをじっと待つのだ

ネイチャー2  DIGITAL 
前川貴行  Photo:Takayuki Maekawa
Check Point
イノシシの子どもは、背中のもようからウリボウと呼ばれる。そのウリボウがけもの道に立ち止まる姿のアップは、とても愛らしい。しかし、この写真もけもの道をじっくり観察してから撮影したものに違いない。それだけでなく写し込まれている周囲の状況からも、この被写体の大きさや、その生きている環境が想像できる

ネイチャー3

 FILM 
水越武  Photo:Takeshi Mizukoshi
「白神山地のブナの木」
Check Point
相当の樹齢を重ねてきたであろう色づいたブナの大木。写真家はただ美しいがゆえにこの大木を見上げて撮ったのではない。これは白神山地に広がる原生林が、さまざまな生命を育んでいるという象徴的な存在として見ているのだ。つまり、一本の木からその環境全体へと連なる生態系が、この写真からイメージされるのだ

ネイチャー4  DIGITAL 
豊田直之  Photo:Naoyuki Toyoda
「サラサゴンベ」
Check Point
水中写真の決め手をひと言でいえば「最短距離で撮る」ことにつきる。目では美しく見えても、海中には浮遊物がいっぱい漂っているため、それが写り込むのを避ける必要がある。魚に警戒されずに近づくためには、もちろん海と魚についての知識や経験が必要になる。この写真のように海の生物の顔をこれほどアップで撮れるというのは、じつはすごいことなのだ

ネイチャー5  DIGITAL 
豊田直之  Photo:Naoyuki Toyoda
「アオウミガメ」
Check Point
以前よりは身近なものになったとはいえ、水中写真にはそれなりの準備が必要だ。たとえば水圧に耐えられるようにカメラを保護するハウジングなどだ。また水中写真には発光装置も必要となる。海中では、深くなるほどに青色以外の波長の光が届かなくなる。しかし、その青い色調を効果的に利用すると、このような雰囲気のある作品を演出することができる

ネイチャー写真とは

自然や動物をテーマにする写真家は、つぎのふたつのことを基本に考えてきたように思う。ひとつは撮影の対象を科学的に見ることであり、もうひとつはその対象を目の前にしてわき起る感情を、美しく表現することだ。
科学的に見るとは、肉眼では見えない事象を写真で表現するという意味である。たとえばある山脈の地形、植物の構造や動物の筋肉の動きなどは、写真によってはじめて多くの人にもイメージできたことである。また、そのために多くの撮影機材やシステムが発明された。そのひとつが写真家の栗林慧が1998年に発明した虫の目レンズだ。これは医療や建築模型に使う内視鏡を利用したレンズを改造してデジタルカメラに装着したもので、この機材によって鮮明でリアルな昆虫の生態撮影が可能になったのだ。
さらに私たちが自然について、どのような思いを抱いてきたのかを知っておくのも大切なことだ。遠い昔から人間は自然の存在に神秘的なものを感じ、自らの営みと結びつけてきた。たとえば富士山という名前には「不死」という意味もあり、そこに日本人がこの山をどう眺めてきたのかという自然観をかいま見ることができる。
前者は自然科学、後者は人文科学からの自然についての見方である。こういった科学的な理解に加えて、写真家が撮影対象から直接に受けた感動や印象が大切なのはいうまでもない。
では、自然や動物を撮影するうえで大切なことはなにかといえば、まずは準備である。機材の準備はもちろん、自然のなかでは撮影のための足場が確保しがたいこともままある。また気紛れな天候の変化や予測できない動物の動きから、絶好のシャッターチャンスが来るまで、何日も待つことも考えられる。
そういった多くの苦労をしながら撮られてきた自然についての写真は、私たちの生活と密接にかかわり、その重要度はますます大きくなってきている。たとえば自然破壊や環境汚染とはどういったことで、どのような影響がもたらされているのか。そういった現実とともに、私たちの自然観に根ざした美しいネイチャー写真は、次の世代に手渡すべきものがなにかを考えさせてもくれる。