デジカメエキスパート 虎の巻

写真を知る ― 過去の名作~現代デジタル写真

スポーツ

スポーツ1  DIGITAL 
宮田正和  Photo:Masakazu Miyata

スポーツ2  DIGITAL 
宮田正和  Photo:Masakazu Miyata

Check Point
自動車レースの最高峰、F1グランプリ。サーキットをマシンが駆け抜けていく。左の写真は、まずあらかじめピントを合わせた位置にマシンが来ることを予測して、高速シャッターで撮ったもの。それに対し、右は写真家がマシンの動きをカメラで追いながらスローシャッターを切っている。左は一瞬の迫力、右はスピード感の強調をねらっている。このふたつの表現がスポーツ写真の基本といえるだろう

スポーツ3  DIGITAL 
宮田正和  Photo:Masakazu Miyata
Check Point
上段右側の写真よりも、さらに可能な限りのスローシャッターで流し撮りし、スピードの表現を目指した一枚。マシンも背景のスタンドもカラフルな斜線と化し、しかもわざと傾けたフレーミングによって異様な迫力が演出されている。こういった写真を撮るには、サーキットのどの位置でカメラを構えるともっとも効果的かという、綿密なロケーション・ハンティングが欠かせない

スポーツ4  DIGITAL 
宮田正和  Photo:Masakazu Miyata
Check Point
レースが終われば、勝者はプレッシャーから解放されて至福の時が訪れる。シャンパンシャワーの飛沫の向こうに、レーシングドライバーの笑顔が見える。写真家はサーキットから表彰台へすばやく移動し、この一瞬をねらわなければならない。こういった競技外の人間ドラマも、スポーツ写真の大きなテーマだ。そのために優れたスポーツ写真家は、そのスポーツを巡る人間関係や、選手のおかれている状況といった知識も必要とされる。スポーツ写真は、本質的には人間のドキュメントなのだ

スポーツ5

 DIGITAL 
水谷章人  Photo:Akito Mizutani
Check Point
記録をかけてトラックを力走する女性アスリートの大胆なフォームからは、全身にみなぎった緊張と高揚が伝わってくる。これもスローシャッターを駆使した撮影で、被写体の動きを表現したものだ。それによって、色彩が混ざりあう視覚効果が生まれ、画面から余計なものが消え、すっきりした画面構成を作り上げている

スポーツ6  DIGITAL 
水谷章人  Photo:Akito Mizutani
Check Point
屋内スポーツは撮影ポジションに制約が多いが、ことに水泳はアングルの選択が少なく、印象的な作品を撮ることがむずかしい。その制約のなかで、限界に挑むスイマーのベストな一瞬をとらえるにはどうすればいいのか。この場合、写真家はスイマーの上半身のクローズアップと、浮き上がってくる一瞬のタイミングにねらいを絞って成功している

スポーツ7  DIGITAL 
水谷章人  Photo:Akito Mizutani
Check Point
ラグビーでスクラムを組む選手をとらえるため、写真家もまた彼らの姿勢に合わせ、ローアングルでカメラを構えてフィールドの臨場感を表現している。望遠レンズ特有の遠近感が圧縮される効果を利用し、スクラムを組んだ選手たちが生みだす力強さや、造形的なおもしろさを表現をしている。背中と足が雄弁に表情を物語っている

スポーツ写真とは

人間の能力の限界に挑むスポーツシーンの記録は、写真にとってその真価がもっとも発揮されるジャンルといえるかもしれない。スポーツ写真は、記録を達成したり勝負を決めた一瞬や、鍛え上げた人間の美しさをとらえるものだが、競技の内外でかいま見られる選手たちの喜怒哀楽や葛藤など、さまざまな人間ドラマも重要なテーマである。そういった意味でもスポーツ写真の現場は、優れたドキュメント写真が生まれる要素で満ちているといえる。
そんなスポーツ写真の発展は、撮影機材の発達と強い結びつきがある。被写体をクローズアップすることのできる明るい望遠レンズ、動きを止める高感度フィルムと高速シャッター、そして強力な発光装置などもスポーツの撮影では必要とされた。こういった機械的な条件がそろうようになったのは1920年代のことだ。ちょうどそのころにプロスポーツが大衆のものとなり、アメリカでは野球のベーブ・ルースやボクシングのジャック・デンプシーといった国民的ヒーローが誕生している。彼らヒーローの活躍は、新聞や雑誌を大メディア産業とするのに大きく貢献したのだ。
こうして写真がスポーツのすばらしさを伝え、大衆を熱狂させるようになると、政治家によってスポーツイベントが利用されはじめる。1936年に開催されたベルリン五輪は、当時のドイツ政権を握っていたナチスの宣伝の道具となった。女性写真家であるレニ・リーフェンシュタールがベルリン五輪を撮影した記録映画「オリンピア」は有名だが、日本からも報道写真家の名取洋之助が取材に訪れるなど、ナチスの台頭とヒトラーの政治的成功が全世界に宣伝されることとなったのだ。
また五輪やW杯など、世界的なスポーツイベントは、カメラの技術革新の場でもあった。デジタルカメラの登場とともに、画像データの通信システムなどが整備され、各メーカーの最新のテクノロジーがこうした機会に試された。スポーツ写真の現場は、選手だけでなく、写真家やカメラメーカーにとっても真剣勝負の舞台となった。
スポーツ写真は、人間の瞬間的な動きをとらえたり、連続で記録することによって、スポーツ医学やバイオメカニクスという身体力学や生体力学を飛躍的に発展させてきたことを付け加えておこう。