鉄道写真のおもしろさは、もちろん車両や鉄道そのものの魅力を撮影することにある。その一方で、風景としての鉄道や、列車と旅の楽しみなど、さまざまなテーマの広がりもあり得る。ことに多くの日本人にとって、鉄道ほど生活に密着した交通機関はないので、鉄道写真というジャンルの裾野は、少年から高齢者までとたいへん広いものである。
振り返ってみると、世界で初の鉄道は1825年にイギリスで建設され、それから鉄道ブームを起こしたが、この過程は写真の発展とほぼ同じ時期のことなのである。鉄道も写真も19世紀の先端技術として登場し、どちらもすばやく世界中に広がった。
日本での鉄道は、1872年の新橋-横浜間にはじめて開通し、同じころ写真によって北海道の開拓が記録されるなど、写真と鉄道は国家的なプロジェクトと深く関係してきた。やがて昭和初期になると、東京市電を撮った高松吉太郎や、ライカで蒸気機関車を撮影した西尾克三郎など、鉄道写真の大家といわれる人々が登場する。
しかしその後、戦時体制に入ると鉄道の撮影は厳しく規制されるようになる。今日のように鉄道写真がふたたび脚光を浴びるのは、戦後にカメラ産業が盛んになり、一般大衆がカメラを気軽に手にしはじめた1950年代からのことだ。当時は蒸気機関車が活躍する一方で、鉄道の電化など近代化が進み、新幹線の開発が始まった時代でもあった。1953年には鉄道ファンの愛好団体である「鉄道友の会」が結成されている。
それ以来、鉄道写真のブームは何度も到来している。1970年代に蒸気機関車が全廃されるころ、その最後の勇姿を撮影しようと、レンズの砲列が撮影ポイントに並んだ。また80年代には夜行寝台のブルートレインが注目され、やはり駅にカメラマンが殺到し、一部では撮影マナーが問題になった。
海外でももちろん鉄道写真は撮られているが、もっとも評価が高いのはアメリカのO・ウインストン・リンクが1950年代に撮影した作品であろう。彼は田舎町を走る蒸気機関車とその沿線の人々を、夜間に大光量のフラッシュを使って撮影し、幻想的で美しい作品を数多く残している。