デジカメエキスパート 虎の巻

写真を知る ― 過去の名作~現代デジタル写真

鉄道

鉄道1  DIGITAL 
広田尚敬  Photo:Naotaka Hirota
Check Point
ばく進する蒸気機関車の力強さが表現され、またその正面部分のディテールもよくわかる。鉄道写真では、どの車両を撮ったのかというデータが説明的にならず、しかし正確に表現されているということが大切だといわれている。つまりこの写真は、鉄道写真の要素が凝縮された一枚といえるだろう。シャッタースピードを考慮して撮影してぎりぎりのところで動きを止めているほか、車両の背景にも余計なものが写されていないから、主体である蒸気機関車が際立っている

鉄道2  DIGITAL 
広田尚敬  Photo:Naotaka Hirota
Check Point
回転し続ける巨大な動輪だけをクローズアップし、力強さ、スピード感を強調している。まさに蒸気機関車ならではのシーンではあるが、左の写真よりもさらに単純化された構成になっている。こういった主観的な表現にすることで、いまではほとんど見ることもなくなった蒸気機関車に対する人々の記憶や、熱い思いを呼び起こそうとしている

鉄道写真とは

鉄道写真のおもしろさは、もちろん車両や鉄道そのものの魅力を撮影することにある。その一方で、風景としての鉄道や、列車と旅の楽しみなど、さまざまなテーマの広がりもあり得る。ことに多くの日本人にとって、鉄道ほど生活に密着した交通機関はないので、鉄道写真というジャンルの裾野は、少年から高齢者までとたいへん広いものである。
振り返ってみると、世界で初の鉄道は1825年にイギリスで建設され、それから鉄道ブームを起こしたが、この過程は写真の発展とほぼ同じ時期のことなのである。鉄道も写真も19世紀の先端技術として登場し、どちらもすばやく世界中に広がった。
日本での鉄道は、1872年の新橋-横浜間にはじめて開通し、同じころ写真によって北海道の開拓が記録されるなど、写真と鉄道は国家的なプロジェクトと深く関係してきた。やがて昭和初期になると、東京市電を撮った高松吉太郎や、ライカで蒸気機関車を撮影した西尾克三郎など、鉄道写真の大家といわれる人々が登場する。
しかしその後、戦時体制に入ると鉄道の撮影は厳しく規制されるようになる。今日のように鉄道写真がふたたび脚光を浴びるのは、戦後にカメラ産業が盛んになり、一般大衆がカメラを気軽に手にしはじめた1950年代からのことだ。当時は蒸気機関車が活躍する一方で、鉄道の電化など近代化が進み、新幹線の開発が始まった時代でもあった。1953年には鉄道ファンの愛好団体である「鉄道友の会」が結成されている。
それ以来、鉄道写真のブームは何度も到来している。1970年代に蒸気機関車が全廃されるころ、その最後の勇姿を撮影しようと、レンズの砲列が撮影ポイントに並んだ。また80年代には夜行寝台のブルートレインが注目され、やはり駅にカメラマンが殺到し、一部では撮影マナーが問題になった。
海外でももちろん鉄道写真は撮られているが、もっとも評価が高いのはアメリカのO・ウインストン・リンクが1950年代に撮影した作品であろう。彼は田舎町を走る蒸気機関車とその沿線の人々を、夜間に大光量のフラッシュを使って撮影し、幻想的で美しい作品を数多く残している。