FILM
大野純一 Photo:Junichi Ohno
(http://www.ne.jp/asahi/tokyo/circus/)
Check Point
中性的なモデルが黒い上下を身につけ、もの憂い表情をしている。この写真では、主役である着衣の質感がとても強調されていることに注意。はだけた胸が濡れて光り、それを包む上着もライトを反射してしっとりと黒く光って、素材の感触を表している。またモノクロであることが、その効果を高めている。ファッション写真はファッションの主役である洋服などとともに、そのブランドのイメージを物語らなくてはならない。この写真の場合、シンプルで中性的な感覚こそがそれを表す
ファッションやコマーシャルなどの商業写真は、最新のモードや商品の情報を写真で見せるだけでなく、それらが与える生活のイメージを消費者に伝え、購買意欲を起こさせる目的で撮影されている。つまり、このジャンルの写真には、それが撮られた時代の芸術やライフスタイルの影響がいち早く表れることにもなるのだ。
ファッション写真は20世紀初頭に『ヴォーグ』『ハーパース・バザー』『ヴァニティ・フェア』というアメリカのファッション雑誌から花開いた。エドワード・スタイケンは『ヴォーグ』の専属写真家として1920年代に活躍し、それまでの絵画的な雰囲気を重視したファッション写真を一変させた。シャープな描写で衣服の素材感を表現し、またライティングによる演出を駆使し、現在のファッション写真の基本的なスタイルを作り出した。
このころには数々の実験的な試みも行われている。たとえばアメリカ出身の前衛芸術家であるマン・レイは、当時注目を集めていたシュールレアリスムの手法でファッション写真の傑作を残した。さらに1950年代になるとアーヴィング・ペンやリチャード・アヴェドンといった写真家が、ファッション写真のスタイルを完成させた。
コマーシャル写真の分野が盛んになるのは、大量消費社会が到来した1950年代のアメリカからである。人々に豊かさを約束する新商品の広告写真がグラビア雑誌に掲載され、人々に行き渡っていった。
ファッション写真とコマーシャル写真の発展は、その制作システムを大きく変え、分業制度を確立させていく。写真家は必要なイメージを総合的にデザインするアートディレクターと協業し、ひとつのイメージを作るようになっていった。日本でも1960年代からこのシステムが採用され、ファッション写真やコマーシャル写真が発展した。
1980年代から90年代にかけて、ベネトンのアートディレクターであったオリビエロ・トスカーニは、自社の広告にそれまでタブーであったエイズや戦争など社会問題を扱った写真を使用した。このシリーズ広告は賛否両論を巻き起こし、抜群の広告効果をあげた。