Distagon T* 1.4/35:コシナ(cosina)

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コシナ Distagon T* 1.4/35 実写レポート

オートフォーカス全盛の現在において、マニュアルフォーカスによる操作と精緻なレンズ生産で定評のあるコシナから、新型レンズ「Distagon T* 1.4/35 ZE,ZF.2」が発表された。

公開日: 2011年06月22日

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コシナ Distagon T* 1.4/35 実写レポート

公開日: 2011年06月22日

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 オートフォーカス全盛の現在において、マニュアルフォーカスによる操作と精緻なレンズ生産で定評のあるコシナから、新型レンズ「Distagon T* 1.4/35 ZE,ZF.2」が発表された。カール・ツァイス社との共同開発により誕生した1本であり、ディスタゴンシリーズでいちばん明るい大口径レンズだ。今回は筆者所有のキヤノン EOS 5D Mark IIに本レンズを装着。梅雨明け直後の沖縄にて、新型レンズのうまみを満喫してみた。

さまざまな形状のレンズを巧みに組み合わせ、諸収差を高度に抑制

 今回発表された「Distagon T* 1.4/35 ZE,ZF.2」(以下「Distagon T* 1.4/35」)は、35mmフルサイズに対応する広角単焦点レンズだ。広角レンズ設計の基本というべきレンズレイアウトが特徴で、その優れた描写特性から数々の伝説を生み出してきたディスタゴンの最新作である。またコシナが製造するカール・ツァイスT*レンズとして、ちょうど10本目となるアニバーサリーモデルだ。
 レンズ構成は9群11枚であり、さまざまな形状のレンズを巧みに組み合わせることで、諸収差を高度に抑制している。現在の広角レンズでは、要所において非球面レンズのパワーを最大限に使う設計思想が主流を占めているが、この「Distagon T* 1.4/35」では非球面レンズの使用を最低限(1枚)に抑え、レンズ同士の相互作用(収差を打ち消し合う)や、レンズレイアウトを工夫することによって高画質化を図っている。非球面レンズの作用は確かに大きく、球面収差やコマ収差の補正からレンズの小型化に至るまで、あらゆる部分に極めて高い効果がある。しかし光軸をやや強引に屈折させることから、ぼけが乱れやすくなるなどの副作用があるのも事実だ。「Distagon T* 1.4/35」では全体の画質バランスを整えるために非球面レンズを使っているが、非球面レンズの持つパワーを解像力向上のために用いてはいない。
 ピント合わせはマニュアルフォーカス式で、レンズ内部には駆動用の動力源は一切ない。レンズ鏡胴部はすべて金属製で、鏡銅部同士がかみ合う部分にグリースが塗布されており、しっとりとしたタッチが味わえる。またMF時にAF用モーターが介在しないため、ピントリングとレンズの繰り出し機構がメカニカルに連動。まさにミリ単位でピントを緻密に追い込むことができる。威風堂々としたスタイルは存在感抜群であり、このレンズを使うといつもとは違う写真が撮れそうな予感すらある。手触りや質感からでもコシナの本気度がひしひしと伝わってくる。

「Distagon T* 1.4/35」実写画像

画像をクリックすると等倍サイズの画像(9.8~19.3MB)を開きます。

F1.4

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:1/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F1.4/シャッタースピード:1/40秒/ISO感度:400/WB:太陽光/ピクチャースタイル:風景/RAW
広角レンズで撮影したとはにわかに信じ難いほどの描写だ。ぼけの大きさや滑らかさもさることながら、ピントが合っているザルの描写が秀逸であり、被写体の質感を余すことなく引き出している。具体的にはコントラストと解像力のバランスの良さが特徴的であり、実にカール・ツァイスらしい描写性能。テストなどによる数値化をしにくい部分だが、コシナの職人芸がカール・ツァイスの伝統を忠実に再現している。

F1.4

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:2/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F1.4/シャッタースピード:1/6,400秒/露出補正:+1EV/ISO感度:200/WB:太陽光/ピクチャースタイル:風景/RAW
F1.4の開放で撮影したものだが、ピントを合わせた白い石像のシャープネスは申し分ない。背景のぼけはご覧のように美しく、ぼけとぼけが重なり合ってさらに大きなぼけを作り出している。またハイライト部に発生している通称“玉ぼけ”も大きくゆがんでおらず、周囲のぼけと融合して滑らかな背景を作り出している。一般的に解像力とぼけは相反する関係にあるが、その2つの要素を見事に両立している。

F1.4

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:3/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F1.4/シャッタースピード:1/640秒/露出補正:+1EV/ISO感度:200/WB:オート/ピクチャースタイル:スタンダード/RAW
階調の滑らかさとぼけの美しさが融合。何げないシーンですら絵にすることができる。特に注目したいのが玉ぼけの重なり具合であり、ぼけの周囲に強いエッジが立たないために、ぼけ同士がごく自然に融合している。この特性があれば直線の被写体をぼかしたときにも二線ぼけになりにくく、背景のざわつきを最低限に抑えることができる。35mmでは広い範囲をぼけエリアとして使うだけに、ぼけの良しあしが写真の質を決める。

F1.4

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:4/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F1.4/シャッタースピード:1/8,000秒/ISO感度:100/WB:オート/ピクチャースタイル:スタンダード/RAW
絞り開放で撮影をするとごくわずかに周辺光量が減少するが、描写としてはむしろ自然だ。広角独特のパースと周辺減光を組み合わせることで画面に奥行きが発生。画面中央の被写体がより引き立つ。画像処理で周辺減光を補正することはたやすいが、むしろこのままの方が写真ライクで好ましい。花などのクローズアップはもちろんだが、ポートレートに活用してもおもしろい効果が出せるだろう。

F4

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:5/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F4/シャッタースピード:1/1,600秒/ISO感度:100/WB:オート/ピクチャースタイル:風景/RAW
F4まで絞るだけで周辺画質が安定して実用域に入る。また細線の描写性能も申し分なく、石垣の質感はもとより、山肌に生えた夏草の細部までが手に取るようにわかる。広角レンズは画質向上のために深く絞って使うものと思われがちだが、このレンズではその方程式を使う必要はない。あくまで被写界深度だけを考えて絞り値を決定してみたい。

F5.6

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:6/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F5.6/シャッタースピード:1/500秒/ISO感度:200/WB:太陽光/ピクチャースタイル:風景/RAW
シルエットになった人々の様子が鮮明に写し出されている。解像力の高さは予想をはるかに超えており、波の模様までもが見て取れる。また灯台のてっぺんにある方位指標のシャープさは驚きであり、矢印のカタチまでもが克明に確認できる。それに加えて階調表現の素晴らしさにも特筆すべきものがあり、空のグラデーションを見事に再現。雲の質感の違いや動感を見事にとらえている。

F5.6

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:7/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F5.6/シャッタースピード:1/1,600秒/露出補正:+1EV/ISO感度:100/WB:太陽光/ピクチャースタイル:スタンダード/RAW
まともに目を開けていられないほどの強い日差しであったが、白い建物のキワに色収差がほぼ発生していない。安価なレンズならかなり太めの縁取りができても不思議ではない状況だが、Distagon T* 1.4/35ではそれを心配する必要はまるでない。あらゆる広角レンズを使ってテスト・撮影を行ってきたが、筆者の経験においてこれほど色収差が少ないレンズはなかったように思う。まさにパーフェクトな描写力だ。

F7.1

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:8/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F7.1/シャッタースピード:1/1,250秒/ISO感度:200/WB:太陽光/ピクチャースタイル:風景/RAW
白い波や砂浜などは白飛びしてしまっても不思議ではない状態だが、ハイライトから中間調までなだらかに再現されている。また画面上の水平線はほんの少し丸みを帯びているが描写は自然であり、非球面レンズで強引にゆがみを補正したときのように直線が波打っていない。扱いやすい描写特性があるためあらゆるシーンにマッチ。使い勝手に優れている。

F8

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:9/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F8/シャッタースピード:1/400秒/ISO感度:100/WB:太陽光/ピクチャースタイル:風景/RAW
カラーバランスも正確で、海の色の変化を忠実に再現している。カラーバランスの良否はガラスの質やコーティングの方法によって大きく左右されるが、特に広角レンズではコーティングによるところが大きい。多層膜コーティングをすることはいまやどんなレンズでも常識となっているが、カラーバランスをニュートラルに保つには高い技術力が必要。これがカール・ツァイス独特のT*コーティングの実力だ。

F11

「Distagon T* 1.4/35」実写画像:10/10

カメラ:EOS 5D Mark II/レンズ:Distagon T* 1.4/35/露出モード:絞り優先AE/絞り:F11/シャッタースピード:1/25秒/ISO感度:200/WB:オート/ピクチャースタイル:風景/RAW
画面の随所に直線が入った1枚。多くの広角レンズでは右手前の木戸や、左側の柱などが大きくゆがんで丸みを帯びた描写になるところ。しかしDistagon T* 1.4/35ではご覧のように直線が忠実に再現されており、落ち着きのある描写が楽しめる。また35mmという焦点距離からパースのつき方も自然であり、見た目に近い印象に仕上がることも特徴のひとつだろう。

名玉が多いことで知られるコシナ製レンズのなかでも別格の出来栄え

 「Distagon T* 1.4/35」はF1.4という明るさのため、広角レンズでありながら多彩な表現が楽しめるレンズだ。大口径レンズは一般的に開放時に諸収差が残存しやすく、やや眠たい画質になる傾向があるが、「Distagon T* 1.4/35」の画面中央部は開放付近からシャープに解像。画質を高めるために絞り込む必要はほとんどないほどだ。また周辺部の画質もF4付近で安定するため、大きな絞り値によって撮影条件が縛られてしまうようなことはない。
 ディストーションの少なさでも群を抜き、廉価版のレンズとの“格”の違いは歴然。画面端の直線はごくわずかにカーブを描くものの、写真としてむしろ自然な雰囲気に仕上がる。ぼけのきれいさは期待どおりで、ぼけの大きさ・質ともに35mmとは思えないほど素晴らしい。レンズ名を伏せてしまえば50mmクラスと見分けがつかないだろう。大口径レンズながら周辺減光の発生も少なく、点光源による玉ぼけが大きくゆがむことはない。その上で解像力とコントラストとのバランスが絶妙であり、細部まで解像しても画質がカリカリとせず、画面全体がしっとりと落ち着く。また色収差の少なさでも同クラスのレンズを大きくリード。コシナの技術の高さにあらためて驚かされる。現在ではカメラ内や付属のソフトウエアでの色収差補正処理技術が進んでいるが、光学設計だけでここまで色収差を低減できるというお手本のような存在といえるだろう。
 フローティングシステム(近距離収差補正機構)を採用しているため、どの距離で撮っても最高のレンズ性能を発揮。ぼけを生かしたクローズアップ撮影も存分に楽しめる。光学特性ではこのクラスのトップレベルであり、筆者が知る限り大口径35mmレンズで、この描写を上回りそうなものは思い浮かばない。決してコンパクトなレンズではなく、価格的にもリーズナブルとは言い難いが、最高の描写を求めるならば購入リストに入れたい1本だ。レンズのなんたるかを知らしめてくれる逸品であり、レンズ特性を信じてシャッターを切れば、写真のクオリティはおのずと上がるだろう。また光学的なクセが極めて少ないため、あらゆるユーザーにとって扱いやすい。
 良い道具を使えば仕事がはかどるように、性能の高いレンズほど撮影そのものを簡単にしてくれる。コシナ製レンズは名玉が多いことで知られているが、そのなかにあっても「Distagon T* 1.4/35」は別格といえるほどの出来栄えである。いささか美辞麗句が並んでしまい、不信に思われる方も多いだろうが(笑)、アラを探そうにも実際にウイークポイントが見つからない。8月にキヤノンEFマウント用が先行発売となる予定で、秋風の吹くころにはニコンFマウント用も登場する。製品の発売が楽しみだ。

写真/レポート:高橋良輔

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