GANREF特別企画 夏の星空撮影術&おすすめアイテム
夏は山や海へ出かける機会も多く、普段より星空に目が向くことの多い季節です。また、ほかの季節に比べて夜間に長時間屋外で活動しやすいので、快適に星空を楽しむこともできます。
星空の撮影というと、難しい撮影の代表のようにも思われがちですが、実際に撮影を試してみると、意外にも簡単に、そして想像するよりも鮮やかに星が写るので驚くことでしょう。この機会に夜空にもカメラを向けてみませんか? 新しい写真の世界が開けてくるかもしれません。
カラマツ林の向こうから、雄大な夏の天の川が昇ってきました。その複雑なシルエットが、ダイナミックな銀河系の活動を想像させてくれます。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M5/レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0/絞り:F2.0/シャッタースピード:60秒/ISO感度:1600/ソフトフィルター使用/追尾撮影
四季折々に季節ごとの星空の魅力がありますが、夏の星空のハイライトといえば、やはり一番は「天の川」でしょう。普段の生活環境では見えることも少ないと思いますが、人工光の少ない夜空の暗いところでは、まるで雲の帯が夜空を横切っているように流れているのがわかります。
天の川は、私たちの住む太陽系もその一部である銀河系を内側から見た姿です。銀河系は数千億個もの恒星や星間ガス、ダストなどから構成される直径10万光年ほどの円盤状をした渦巻き銀河で、太陽系はその中心から2万8000光年ほど離れた場所に位置しています。夏の天の川が太くて明るく見えるのは、銀河系の中心方向を見ているからです。肉眼では淡い雲のような天の川ですが、写真に撮ってみると、本当に星の大集団であることがわかります。その中に散在する数々の星雲や星団、入り乱れる暗黒星雲の迫力ある姿が撮れれば、感動できること間違いありません。
南の空には、S字型の星の並びを見せる「さそり座」が、夏を代表する星座として君臨しています。その心臓部にある1等星「アンタレス」の赤い色は、夏の夜空のシンボルです。また、天の川の両岸に輝く七夕の織女星「ベガ」と牽牛星「アルタイル」、天頂近くに大きな翼を広げた「はくちょう座」の「デネブ」の3個の1等星で作る「夏の大三角」など、夏の夜空を代表する星々や星座の輝きも見逃せません。
さらに、8月12~13日頃には、有名な「ペルセウス座流星群」が出現のピークを迎えます。これは、冬に見られる「ふたご座流星群」や「しぶんぎ座流星群」と並んで3大流星群と呼ばれています。2013年は8月13日午前3時ごろが極大時刻と予想されていますが、その時刻には月明かりもなく、観察・撮影には絶好の条件です。極大時には、全天で1時間あたり数十個もの流星を数えることができることでしょう。ペルセウス座流星群の流星はスピードが速く、明るいものが多いのが特徴です。
私が高校生の時に、星を見るために初めて買った双眼鏡「ニコン7×50トロピカルIF防水型」と2台目の「ニコン7×26DCF」です。トロピカルは40年近くの酷使で塗装や貼り革は剥がれ、見かけはひどいものですが、さすがにプロ機です。いまだにガタや光学系の曇りはまったくなく、その後増殖した双眼鏡たちに囲まれて今でもバリバリの現役です。
街を離れて天の川のよく見えるような夜空の暗いところ、山や高原、海などに出かけたら、星の写真を撮るだけではなく、ぜひ肉眼でも星の輝きを楽しんでほしいと思います。ただ眺めるだけでも十分に美しく楽しいのですが、双眼鏡があれば、星空の面白さは何倍にも広がります。双眼鏡のレンズを天の川に向ければ、丸い視野の中はまさに星の海です。流星群の極大のころであれば、双眼鏡の視野の中を流星が飛ぶかもしれません。
星の撮影では、少しのカメラぶれでも目立ってしまうため、できるだけ重くて丈夫な三脚を使いましょう。私は木製の三脚に自由雲台を組み合わせて使用しています。木製の三脚にしているのは、震動の収まりがとても早いのと、寒い冬でも冷たくないからです。
星空の撮影には、30秒以上の長時間露出やバルブ露出のできるカメラがあれば大丈夫です。レンズ交換式の一眼レフやミラーレス一眼ならば理想的。丈夫な三脚(普段使うものよりもひと回り大きくて重い三脚だとなお可)と、カメラに手を触れずにシャッターの切れるケーブルリモコンや赤外線リモコンを用意すれば長時間露出のぶれも防げます。
レンズは狙いによりさまざまな焦点距離のものを使用しますが、天の川や満天の星空を表現するために、まずは広角レンズを使ってみましょう。魚眼レンズも星空の撮影にはよく使用されます。できれば開放F値がF2.8より小さな明るいレンズを使いたいところですが、レンズキットの標準ズームの広角端でも、もちろん大丈夫です。
ポータブル赤道儀「ポラリエ」を使用して、天の川を追尾撮影中です。夜空の暗いところでは、長時間露出で星空を撮りたくなります。少し明るめになるくらいに露出して、RAW現像で階調を整えるのが、表情豊かな天の川の写真を仕上げるひとつのコツです。
星空の撮影には大きくわけて2つの方法があります。三脚にカメラを固定し、数十秒から数分、ときには数時間以上の露出をかけて撮影する方法を「固定撮影」といいます。地上の風景と星空を一緒にとらえる「星景(せいけい)写真」では一般的な方法です。固定撮影では、星が日周運動で動いて行く様子が光跡となって写ります。これを逆手にとり、数分以上の露出時間をかけて、星の光跡を長く写し出すのも、星の写真ならではの面白さでしょう。
固定撮影では30秒露出でも星の像がいくらか伸びてしまうので、星をシャープに写し止めたい場合は、星の日周運動を追尾する装置「赤道儀」を使って日周運動を追いかけて撮影する「追尾撮影」という方法で撮影します。
追尾撮影をすれば、ISO感度を上げずにシャープに撮ることも可能で、望遠レンズを使えば、天の川のクローズアップや、星雲・星団もくっきりと撮れるようになります。
追尾撮影では、星の輝きを自然に見せるために「シャープネス」を最低(効かせない)の設定にセットするのがおすすめです。明るい星の色や輝きを強調するために「ソフトフィルター」を使ってみるのもよいでしょう。
なお、最近は1分以下の露出時間で長時間連写し、撮影後にソフトウェアの「比較明合成」で日周運動を表現する手法も一般的になってきました。この方法で撮影すると、空の明るい撮影地でも星の光跡を長く表現した写真にできます。
さて、それではどのように露出やピントを決めればいいでしょうか。星空の撮影では、カメラの内蔵露出計やオートフォーカスを使うことはできません。ピントも露出もすべてマニュアルモードにセットして、すべて自分で決めることになります。ですが、まったく心配はありません。撮影の結果がすぐに確認できるデジタルカメラの利点を最大限に生かせばいいのです。
ピント合わせは、ライブビューの拡大マニュアルフォーカスを使うのが最も確実です。撮りたい画角の焦点距離を選んだら、だいたい無限遠にピントリングを合わせたカメラを、そのとき見える最も明るい星に向けて、ライブビュー画面を拡大します。ピントリングをゆっくり操作して、星の像が最も小さくなったところがジャストフォーカスです。星でわかりにくい場合は、十分に遠いところにある街灯などを利用するのもいい方法です。
ピントがOKになったら、撮りたい方向にカメラを向けて試し撮りです。感度を最高感度にし、絞り開放で2~8秒程度で撮影してみましょう。撮影後に画面を再生して、必ずヒストグラムを確認します。暗い中では、モニターの明るさから露出の過不足を判断することができないからです。
ヒストグラムのピークが中央より左寄りに来ているくらいが、だいたい適正露出になります。このときの露出値を基準にして、本番の撮影の感度に合わせた露出を決めましょう。ISO感度を1/2にして露出時間を2倍、感度1/4だと露出時間4倍で、試し撮りと同じ明るさに撮れる計算になります。
天の川の見えるような空だと、ISO 1600、絞りF2.8で30~60秒露出というところでしょうか。試し撮りでは、同時に構図の確認もしましょう。とくにミラーレスカメラのモニターでは、ほとんど星空の構図を確認することができないので、試し撮り再生の結果を見て構図の微調整を行うことになります。
ホワイトバランスはオートか太陽光を選びますが、マニュアルで4000~4500Kくらいにセットすれば、夜空らしい青っぽい発色にすることができます。人工光で夜空が明るいときは、蛍光灯のセッティングがいいこともあります。
また、天の川や星空は普通の風景に比べるととても平面的です。画面にメリハリをつけるために、できればRAWで撮影し、RAW現像時にコントラストやトーンカーブの調整をして階調を整えます。JPEGで記録する場合でも、カメラのコントラストの設定を高めにしておくといいでしょう。
さらに気温の高い季節は、どうしても長時間露出でのノイズが増加してしまいます。処理時間がかかりますが「長秒時ノイズリダクション」を積極的に使用しましょう。
星の光は弱いので、目で見るとき以上に空の明るさに埋もれてしまったり、レンズ面に光が当たって思わぬゴーストやハレーションが生じてしまったりすることもありますから、なるべく余計な光がない場所で撮影しましょう。ただ、暗い場所では思わぬ怪我をすることもあります。足下には十分な注意が必要です。グループで撮影するときには、灯りを使用する前に声を掛け合い、お互いの邪魔にならないようにします。また、むやみに歩き回って三脚に足を引っかけたりしないように気をつけましょう。
長時間にわたって撮影を続けるときは、レンズに付く夜露を防ぐためのカイロ(灰式や電池式のもの)やヒーターなどがあると安心です。これをゴムバンドなどでレンズに取り付けて温め、レンズ面への結露を防止するのです。
また、カメラの操作や手元の確認のために、赤い光に減光したヘッドランプを使用しましょう。明るい照明だと、せっかく暗い場所に慣れた目がくらんでしまって、星が見えなくなってしまいます。最近では夜間行動用の赤色LEDが内蔵されたものも多く出回っていますので、アウトドア用品店などで探してみましょう。同様の理由で、デジタルカメラの背面モニターの光量も最低レベルにセットしておきましょう。暗い中でまごつかないように、カメラの操作に慣れていることも重要です。
特徴的な岩山を前景に、北極星を中心とした日周運動の光跡を撮影してみました。北天の星々は、反時計回りに回転します。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M5/レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8/絞り:F2.5/シャッタースピード:15分/ISO感度:320/ソフトフィルター使用/固定撮影
ベガ、アルタイル、デネブの3個の1等星が形作る「夏の大三角」を中心に、天の川の階調を重視して仕上げてみました。よく見ると、はくちょう座には赤い散光星雲がいくつも写っています。天の川の淡いところまでくっきりと写し出すには、夜空の暗いところで長時間露出をすることです。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M5/レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0/絞り:F2.8/シャッタースピード:4分/ISO感度:1600/ソフトフィルター使用/追尾撮影
スイフト・タットル彗星は1862年に発見された彗星で、133年の周期で太陽を周回しています。軌道上には彗星から放出され帯状に拡散した流星物質(ダストトレイル)が彗星と同じように周回しています。この彗星の軌道は、地球が8月13日ごろ通過するあたりで地球軌道と交差しているため、毎年同じ場所で同じ時期に流星群が出現するのです。
流星は、宇宙空間を漂っている小さな砂粒のような「ちり」が、秒速数十kmという超高速で地球大気に衝突し、そのエネルギーで大気や流星から蒸発した物質が短時間発光する現象です。まとまってたくさんのちりが衝突すると流星群になるわけですが、それは、もともと彗星から放出されたものです。彗星の軌道上にはそのようなちりが大量に周回していて、決まった時期に地球がその軌道を横切るので、毎年同じ時期に流星群が見られるというわけです。
ペルセウス座流星群の母彗星は「スイフト・タットル彗星」で、毎年8月12~13日が活動の極大です。2013年は8月13日の午前3時ごろが極大時刻と予報されています。流星群自体の活動期間は7月20日ごろから8月20日ごろまでと、けっこう長いものです。
ペルセウス座流星群の流星物質は速度が非常に速く、そのため明るい流星が多いのが特徴です。ペルセウス座が北東の空に昇ってくる21時ごろから夜明けまで、撮影可能な時間はたっぷりありますが、突発的な大出現が見られることもあるので、じっくりと腰を据えて臨みましょう。今年は上弦に近い月齢ですが、22時ごろまでに月は沈んでしまうので空は暗く、条件は最高です。
地球とスイフト・タットル彗星の軌道の向きの関係で、流星物質はペルセウス座の方向から地球に飛び込んでくるように見えます。そのため、流星はペルセウス座から四方八方に飛び出してくるように見えます(その中心を「放射点」といいます)が、全天どこにでも流星が流れる可能性があります。ペルセウス座流星群だからペルセウス座に出現するというわけではありません。
ですから、カメラは空のどこに向けてもかまいません。流星はいつどこに現れるかわからないので、好きな方向にカメラを構え、あらかじめシャッターを開いて待ち構えるという撮り方になるわけです。
撮影の基本は、普通の星空の撮り方と同じです。ただ、流星が流れるのは瞬間なので、できるだけ高感度にセットし開放F値の小さな明るいレンズを使用するのが望ましいでしょう。画角が広いほど流星が飛び込んでくれる可能性が高まるので、焦点距離20~24mm(35mm判換算)程度の広角レンズがよく使われますが、そのぶん流星自体は短く写ることになります。焦点距離が長めになると流星の経路が長く写るので迫力のある写真になりますが、うまく画面に飛び込んでくれるかどうかが問題です。
このあたりの正解はありません。気に入った構図にセットして30秒から1分程度の露出時間で撮影を繰り返し、あとは文字どおり「天に祈る」のみ。うまく流星が飛び込んでくれるのをひたすら待ちましょう。その程度の露出時間であれば、長秒時ノイズリダクションを使わなくても大丈夫なカメラも多いので、連写モードでリモコンのボタンをロックして撮影を続けます。カメラによっては、長秒時の連写にインターバルタイマーを使用します。
赤道儀が使える場合は、星空に構図を固定したまま追尾撮影をし、流星の写ったコマをソフトウェアを使って「比較明合成」をすると、放射点を中心に流星が四方八方に飛び出す流星群らしい様子を表現することができます。この場合は最低でも1時間以上の追尾をしたいので、星がずれてしまわないように、できるだけ頑丈な三脚に据え付け、精密に赤道儀の極軸をセットします。なお、流星を撮る場合は、長時間カメラを外気にさらしたままになります。夜露対策のカイロやヒーターを忘れないようにしましょう。
この春は「パンスターズ彗星」がやってきて話題となりました。撮影に挑戦した人も多かったのではないでしょうか。ただ残念なことに、彗星と地球の位置関係が良くなく、明るさの割に撮影が難しい彗星でした。
しかし、今年の大本命は、秋にやってくる「アイソン彗星」です。2012年9月に発見され、2013年11月28日に太陽に最接近し、満月より明るくなるかもしれないと推測されています。この彗星はパンスターズ彗星と違って、北半球では観測条件がとても良く、歴史的な大彗星になるかもしれないと、おおいに期待されているのです。
アイソン彗星は11月初めごろから明け方の東の空に肉眼で見える明るさとなり、太陽最接近後の数日間は明け方と夕方の空に、そしてその後は再び明け方の空に雄大な姿を見せてくれるはずです。2014年の初めまで肉眼で見ることができると予想されていますが、はたして実際はどれほどの明るさになってくれるでしょうか?
彗星の大きさや明るさの予想は大変難しく、予想どおりにならないこともままありますが、それでもかなりの大彗星になることは間違いないでしょう。それまで星空撮影の経験を十分に積んでおき、自信を持ってアイソン彗星の撮影に臨めるようにしておきたいものです。
2013年3月12日のパンスターズ彗星です。この時期のパンスターズ彗星は太陽近くの明るい空に見えていて、なかなか探しにくい彗星でした。しかし、富士山手前の横浜の街灯りに比べると、かなり明るい彗星だったことがわかります。彗星が見やすくなるように、コントラスト強調をかなり強力に施しています。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M5/レンズ:ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0/絞り:F2.2/シャッタースピード:3.2秒/ISO感度:200/固定撮影