GANREF特別企画 夏の星空撮影テクニック&おすすめアイテム
~TOAST TECHNOLOGY編~
星の日周運動を追尾するポータブル赤道儀は現在数機種市販されているが、ロケ撮影時に求められるコンパクトさと、追尾精度や耐荷重性能を両立させることは難しい。その点、TOAST TECHNOLOGYは初代「TOAST」から従来の赤道儀の概念を覆す大型ウオームホイール採用の扁平なボディでそれを実現し、さらに洗練された2代目「TOAST Pro」は、現代ポータブル赤道儀の範ともいえるモデルとなった。3代目がこの「TP-2」で、天体追尾のほかタイムラプスムービー撮影を強く意識したモデルとなっている。
歴代TOASTシリーズの企画製造は、暗所での撮影が得意な映像プロダクションによるもの。ポータブル赤道儀とはいえ天文機器系メーカーの製品とは一線を画した撮影機材(メーカーでは「Star Tracking & Motion Time-Lapse Mount」とネーミング)といえるものなのだ。
メーカー希望小売価格:オープン価格
スタイリッシュでシンプルなフォルムが人気の「TOAST Pro」の後継機が「TP-2」だ。外見に大きな変化はなく、コンパクトなボディに内包された高精度な追尾性能やボディの堅牢性はそのままで、大型ウオームホイールのギア形状を見直すとともに電源昇圧回路を搭載したことにより、いっそう安定した天体追尾を実現した。電源はエネループに代表されるニッケル・水素電池やスマートフォン用のUSBリチウムイオン電池などにも対応するなど、選択肢の幅が広くなっている。
また、天体追尾だけでなく、モーションタイムラプス撮影でカメラをパンさせるターンテーブルとしての機能が充実している点も「TP-2」ならではの特徴だ。回転速度の選択肢が豊富で、天体追尾や星景撮影モードのほかに6段階、合わせて10段階ものスピード選択ができる。
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星の日周運動を追尾するためには、「TP-2」の駆動軸「極軸」を地球の地軸に平行にする必要がある。しかし、広角レンズでの数分露出程度の撮影では極軸合わせにあまり神経質にならなくても大丈夫だ。「TP-2」本体ののぞき穴で北極星を見えるようにセットするだけで十分な精度が得られる。北極星が見えない場所では、傾斜計やコンパス(スマートフォン用アプリでもOK)を使って「TP-2」の向きを合わせよう。
一方、長時間の連続追尾や望遠レンズでの撮影ではできるだけ正確にセッティングしたいところだが、このためにオプションの極軸望遠鏡「ポーラファインダー」が用意されている。これは4倍・実視界12°の小型望遠鏡で、北極星を望遠鏡視野内の指標に合わせるだけで正確なセッティングができるものだ。
天体追尾速度はSTAR(恒星)、MOON(月)、SUN(太陽)が選択でき、恒星追尾の半速で駆動するStar-Landscape(星景)モードも備えている。普通は星の日周運動に同期するSTARモードを使おう。Star-Landscapeモードは広角レンズの星景撮影で1〜2分程度の比較的短時間露出のとき、星も地上もできるだけぶらしたくない場合に使用する。星に重点を置きたい場合は10°/h(恒星の2/3速)も使える。
さそり座といて座の天の川だ。これは「TP-2」のSTARモードで撮影した。ここは銀河の中心方向で天の川の最も濃く明るい部分だ。追尾撮影をすることで、天の川の細部までしっかりと描写することができる。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M10/レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8/絞り:F2.8/シャッタースピード:3分/ISO感度:1600/追尾撮影/ソフトフィルター使用
はくちょう座の「北アメリカ星雲」を望遠レンズで追尾撮影。赤い色は水素のガスが自ら放つ光で、肉眼ではわからない。淡い星雲は光害の少ない空でたっぷりと露出をかけるのがきれいに写すコツ。露出オーバーと思うくらいで撮ってRAW現像でコントラストを調整するのがいい。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M5/レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8/絞り:F2/シャッタースピード:2分/ISO感度:1600/追尾撮影
星空を高感度の短時間露出で連続撮影して動画に編集すれば、目で見ただけではわからない天球の巡り(つまり地球の自転)や雲の流れを可視化することができて大変おもしろい。最近はタイムラプス(微速度撮影)モードが搭載されているカメラも増えていて、そのモードを使えば難しい操作や編集の必要もない。日周運動でゆっくりと巡る星空を撮るだけでも楽しいのだが、「TP-2」にカメラを載せてターンテーブルとして使用すれば、カメラワークによる動きが加わったダイナミックな映像とすることができるので、挑戦してみてはいかがだろうか。
星空の場合は、1コマあたり30秒程度の露出時間になるように絞りと感度をセットし、1〜2時間の連続撮影でタイムラプスムービーに仕上げてみよう。
タイムラプスムービー撮影時のポジション。「TP-2」を水平にセットすればカメラを左右に、垂直にセットすれば上下にカメラを振りながらのモーションタイムラプス撮影ができる。普通の三脚雲台でも可能だが、安定性や確実性を考えるとアルカスイスタイプのクランプやタイムラプス用Lブラケットを使用するのが便利だ。素早いセッティングが可能で、ガタや遊びがまったくないことがありがたい。天体用赤道儀の極軸調整用微動装置は上下左右微動のタイプが一般的だが、それでは不可能な水平出し微調整ができるのがTOAST TECHNOLOGY製微動架台「Dish-2」の特徴だ。測量用トランシットのものと同じ3点調整タイプで、ムービー撮影時に必須の精密な水平調整が可能。装置全体をガッチリと固定できる。
木立の向こうに南中するいて座の天の川だ。「TP-2」を水平にセットし、明け方まで恒星スピードで駆動させて撮影した。水平パンでも真南の空なので天の川の日周運動にほぼシンクロしている。流れる光跡は人工衛星だ。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M5/レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8/絞り:F1.8/ISO感度:3200/30秒露出で約2時間30分の連続撮影
はくちょう座からこぐま座にかけての星空。画面左のこずえに北極星がある。TP-2の極軸を天の北極に向けた天体撮影のセッティングなので、北極星を中心に恒星をしっかりと追尾していることがわかる。日没後と夜明け前の薄明は、人工衛星がよく見える時間帯だ。
カメラ:オリンパス OLYMPUS OM-D E-M10/レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0/絞り:F2/ISO感度:3200/30秒露出で約1時間30分の連続撮影
天体追尾撮影時の動きだ。これで約8時間分になる。「TP-2」は星の日周運動に同期して駆動する。ちょうど地球の自転をキャンセルすることになるわけだ。
水平右回りに120°ほど駆動させてみたところ。駆動速度は全部で10段階。被写体や表現意図に合わせて選択しよう。
「TP-2」を垂直(駆動軸を水平)にセットし、上向きに60°ほど駆動させたところ。撮影開始前にカメラやレンズなどがほかの部分と干渉しないか十分に確認しておこう。
形式 | |
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名称 | TP-2 |
型式 | Star Tracking & Motion Time-Lapse Mount |
方式 | ビッグウオームホイール方式 |
モーター | 超小型高精度ステッピングモーター |
大きさ・質量 | |
本体寸法 | 幅:104×高さ:43(最薄部29)×奥行き:180mm
※本体のみ |
本体質量 | 約1.3kg ※本体のみ(ステージを含まず) |
カラー | ブラッドオレンジ(濃赤色)
※モニターなどご利用の環境により、実際の色とは異なる場合がありますので、ご了承ください |
電源 | |
外部電源電圧 | DC5V-12V |
動作温度 | 0℃~40℃ |
駆動時間 | 7時間~10時間(20℃)
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ウオームホイール | |
歯数 | 150歯 |
直径 | 83.5mm |
ピリオディックモーション | ±7″角以下 |
Pモーション周期 | 約9分35秒 |
撮影モード | |
天体撮影モード | STAR(キングスレート)、MOON(平均月時)、SUN(平均太陽時)、北半球駆動モード、南半球駆動モード |
星景撮影モード | Star-Landscape(7.5°/h)および10°/hを使用可能 |
タイムラプスムービー撮影モード | 10°/h、30°/h、45°/h、90°/h、180°/h、360°/h
※正転逆転切り替え可能 |
本体極軸調整 | |
Polar Alignment Hole(本体極軸調整穴) 実視界約5° | |
ポーラファインダー | |
4倍 実視野12°暗視野照明装置(南北天共用) | |
標準セット内容 | |
本体、電池BOX、電源ケーブル | |
オプション | |
暗視野照明装置付きポーラファインダー(取付ステー&脱落防止リング付) 極軸合わせ専用微動架台「Dish-2」、タイムラプスアダプタ「Dish-25」、パンベースクランプユニット、ジンバルフォークユニット、ほか |