液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」製品レビュー&活用テクニック 写真家・茂手木秀行が教える あなたの写真が変わる“劇的仕上げ術”
「モニターに直接ポイントできたら、もっと楽にレタッチできるのに……」。そんな夢を叶えてくれるのがワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq」シリーズ。モニターに表示された画像を直接ペンでポイントできるから、ブラシ作業や選択範囲を作る作業が簡単かつ快適に行えるのだ。ペンタブレットを導入していない人やうまく使いこなせていないペンタブレット初心者にうれしいだけでなく、長年ペンタブレットを使い慣れた上級者にもこの直感的な使い心地を試してみてほしい。直接画像に触れる感覚は一度で病みつきになるに違いない。この記事では、液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」を使用した感想と茂手木流・劇的仕上げ術をレポートする。
Cintiq 13HDには、機能として必要であるペンのほかに持ち歩き用のペンケースと、自宅やスタジオで使用する際に便利なペンスタンドが付属している。ペンケースには複数のペンを使うときに色分けをするためのカラーリングと交換用の標準芯が収められている。ペンスタンドは、上下に分割できる構造で中に替芯を収納できる。
モニターであり、かつペンタブレットであるCintiq。表示された画像を直接ペン先でなぞるのは紙と鉛筆を使っているようで、指先で画像を触っているような感覚だ。
パソコンに接続するためには、HDMI、USBの2つのケーブルと別途電源が必要だが、これらを1本にまとめたケーブルが付属する。Cintiq側はひとつにまとまった端子に接続するだけだ。
ワコムのペンタブレットは、パソコンの歴史とともに入力デバイスのひとつとして発達してきたのだ。マウスと違って、まるで鉛筆で紙に文字を書くように直感的な動作ができることが特徴であるが、筆圧まで含めて人間の感性に素直な入力デバイスとしていまやクリエイティブの現場にはなくてはならない存在になっている。筆者も10年近くワコムのペンタブレット製品を愛用してきた。
そのような状況のなか、モニターと一体型のペンタブレット「Cintiq」シリーズは新たな分野を切り開いた。モニターそのものがペンタブレットになることによって、より人間の感性に近づいたといえる。モニターに表示された画面を直接ペンで操作できることは、まさに紙に鉛筆で自在に絵を描くことと同義であるといっていい。
写真ということに限っても、直接画像の細かな部分に触れながらレタッチするような感覚は、自分の手で直接写真を触っているような錯覚さえ覚えるのだ。Adobe Photoshopで筆圧を活かしたブラシ作業をするときや、細かな選択範囲を作るときにも自分の指先であるがごとく、正確ですばやい作業ができるのである。これはそのまま作業の快適さにつながるのみならず、作業効率のアップを実現できる。作業効率のアップはイコール、クリエイティブではないが、効率の良さはクリエイティブ、つまり創造性にかける時間をさらに生み出すことになる。だからこそ、写真に限らず、ペンタブレットを愛用しているクリエイターが増えているのだ。
画面サイズは13インチと小ぶりではあるが、ディスプレイ解像度はフルHD対応の1,920×1,080ドットであり、高精細な画像表示ができて、レタッチのときの細部の確認も楽々だ。パソコンとはHDMIで接続し、滑らかな階調特性だ。また、Cintiq 13HDは、付属のスタンドを使って作業しやすい角度にすることができるが、視野角の広いパネルのおかげで、どのような角度に設置しても色が変わってしまうことはない。
Cintiq 13HDはそれ1台で使うことはもちろん、ほかのモニターとデュアル接続も可能。一方のモニターで全体を表示しながら、Cintiq 13HDで細かなレタッチを行うと効率的だ。
Cintiq 13HDは、ペンタブレットとしての役割とディスプレイとしての役割を持つが、写真を扱うのに大事なことのひとつにカラーマネージメントがある。Cintiq 13HDは、i1やColorMunkiといったキャリブレーションツールを使うことで、ソフトウェアキャリブレーションが可能だ。メインモニターにはカラーマネージメント対応モニターを使い、Cintiq 13HDをサブモニターとして使うのも良いだろう。この場合もキャリブレーションをすることでメインモニターと色を合わせることができる。視野角も広いためカラーマネージメント対応モニターと比べても遜色のない見え味で、正しい色を見ながらペン先で細かな作業ができることは快適だ。
ところで、写真はフイルム時代も含めて撮っただけでは成立しない。シャッターを切ったその場所にあった現実を自分がどのように感じたかを色やトーンで表現するものである。 そして、シャッターを切るという行為には必ず理由がある。ある現実を見て何かを感じたからこそ能動的な行為としてシャッターを切るのだ。 さらに言えば、その写真を人に見せてコミュニケーションが成立したときに作品としても成立するのだ。そのコミュニケーションとは、その現実の表現の仕方がその人らしさを表しているかを認識してもらえるかということだ。フイルムであれ、デジタルであれ、カメラはおおよそ現実を正しく再現をしてくれる。その画像情報を現像やプリントなどで自分が感じた色やトーンを人に見える形にすることは普遍のことなのだ。フイルムでは現像の工夫、プリント時の色作りでその表現を行ってきた。デジタルでは、その作業がRAW現像、Adobe Photoshopでのレタッチに変わったにすぎない。しかし、大きく変わったことはパソコンと付随する入力デバイス、それら道具を使うことで、誰でも、そして簡単に写真としての表現を行うことができるようになったことだ。誰でも、そして簡単であるからこそ、その人らしさということがより重要な意味を持つようになったのである。
カメラ:マミヤ 645 AFD/バック:Leaf Aptus 75S/レンズ:マミヤ セコール 210mm f4.0/露出モード:絞り優先AE/絞り:F11/シャッタースピード:1/60秒/露出補正:-0.3EV/ISO感度:100/WB:オート/RAW
肺胞のひとつひとつを刺すような砂塵は、砂漠をせき止める山並みも隠してしまっていた。この場所にイメージしたものは、細やかなディテールと砂塵で霞む奥行きなのだ。この作品も基本的な色作りはCamera RAWだけで出来上がってしまう。ブラッシュアップはやはりゴミ除去だ。細かなディテールがある部分にゴミがある場合はCamera RAWのスポット修正ツールを使う。このときもCintiq 13HDで直接画像を触っていけばよいだけだ。ルーティンな作業が早く終わってしまうので、シャドウのディテールをさらに良くしようと思う心の余裕が生まれた。補正ブラシツールに切り替えて本当に細かな部分をペンでなぞっていくのだ。思い通りのトーンが出来上がっていく楽しい作業だ。
前段のとおり、レタッチをする理由は自分がなにを感じたか、なぜシャッターを切ったかを色やトーンで表現するためである。その中には写真全体の色やトーンだけでなく部分的な色やトーンへのこだわりも含んでいる。それは、現実として撮影者が体験したものであるからだ。例えば、距離に応じたシャープ感やコントラストの変化、シャドウやハイライトに限定したディテール感などは、トーンカーブなどの階調補正機能を画面全体に均一に適用しただけでは自分の思ったイメージにならないことがある。そうした場合はレイヤーを組んで画像を重ね合わせる必要がある。そしてもうひとつ、画像のクオリティという面においては、画像に含まれたイメージセンサーのごみや輝点ノイズなどを消去する必要もある。これらのことは概ね細やかな作業であり、他者にとっては目立ちにくいことであるが、写真が自分自身を表すものである以上、こだわりやクオリティをなおざりにすることは看過できるものではない。 以上、レタッチは、表現とクオリティのふたつの側面をもっているが、結果が同じであるなら、速く効率の良い方法をとるべきであることは論をまたない。その方法とは、RAWデータでの色、トーン作りと、効率のよいデバイスの利用であるのだ。具体的には、Adobe Photoshop、Camera RAW Plugin(以下Camera RAW)を使うこと、そして液晶ペンタブレットを使うことだ。
特にペンタブレットの大きな特徴である「筆圧」は、ディテールを処理するときの圧倒的な効率に寄与してくれる。下の動画では筆圧について解説しているので見てほしい。
ペンにかける力加減によってブラシの大きさや選択範囲の大きさを直感的にコントロールできる。マウスで行うときのようにいちいちパネルから大きさを選ぶ必要がなくなり、レタッチ作業を効率化できるのだ。
まずレタッチのワークフローを考えてみよう。撮影はまずRAWデータで行う。これはカメラ内で現像処理するJPEGデータよりも圧倒的に豊富なデータ量があるため、色やトーンの大きな改変が可能であることが第1の理由だ。JPEGデータに何らか階調補正を加えるとトーンジャンプやバンディングといったクオリティの低下が起こりやすい。
Adobe PhotoshopでRAWデータを扱う場合はCamera RAWでRAW現像、RAW現像したファイルをAdobe Photoshopでレタッチという流れが基本だ。この流れの中で重要なことは表現としての色やトーンの補正はRAW現像の段階で終わらせてしまうことなのだ。レタッチは即ちデータの破壊でもあるので、データ量が豊富であるうちに終わらせてしまうのである。そして、その後、部分的な補正をAdobe Photoshopでレイヤーを使って行うのがクオリティも高く、効率も良い方法である。もちろん、Camera RAWで部分的な補正をすることは可能だが、機能の豊富さとマスクの正確さで、Aobe Photoshopでレイヤーを組む方が効率が良いのだ。
最新のデジタルカメラではセンサーにゴミが付着する確率は減ったものの、やはりデジタルフォトにはセンサーゴミの除去作業は必須である。とくに大きなプリントをする場合は思いのほかセンサーゴミがあることに気づくだろう。それをひとつひとつ除去して行く作業はルーティンであり、おもしろい作業であるとは言いがたい。ゴミの除去でもっとも大事なことは、除去するゴミの大きさとほぼ同じ大きさのツールサイズを使うことだ。多くの場合、Photoshopのスポット修復ブラシツールを使うが、Cintiq 13HDを使い筆圧でブラシのサイズをコントロールしながら、ゴミが見えるところの画面をちょっとつつけば完了だ。これまでただ面倒なだけであった作業が、格段にスピードアップするのだ。極論してしまえば、ゴミ除去のためだけだとしても、Cintiq 13HDを使うことの効果は絶大なのだ。
細かなディテールの中にあるゴミを除去するときは、Camera RAWのスポット修正ツールを使う。筆圧で微妙なサイズのコントロールができるとともに、ペンのサイドスイッチに設定されている右クリックを使えばその場でツールの大きさを変更することもできる。
空などディテールのない場所のゴミは、Photoshopで画像を開き同じ画像を複製、描画モードを比較(明)に変更してから重ねた画像をずらす。あとはマスクを作れば完了だ。
写真によっては、部分的にトーンや色合いを変えたいことはよくあるものだ。もちろんCamera RAWでも部分的な補正が可能だ。しかし、本当に細かい部分であったり、輪郭にそってきっちりと差を出したいときなどにはCamera RAWの部分補正では十分ではない。そうした場合は、1枚のRAWデータから補正結果の違う2枚の画像を作り、Adobe Photoshopでレイヤーとして重ねて、必要な部分をマスクすれば良い。Adobe Photoshopではマグネット選択ツールやマスクの境界線オプションなど、正確なマスクを速く作るためのツールが多数用意されているからだ。そこにCintiq 13HDが加わると画面に表示されている画像を縁取るように選択するだけなので、直感的で素早いマスク作成ができるのだ。作例ではハイコントラストでシャープな近景と、近景よりはコントラストが低く柔らかさのある遠景を合成した。現実の風景のなかでも距離が遠くなるほどコントラストが下がるので、そのトーンを作ることで奥行き感を出すのである。
近景は硬くハードに、遠景は少し柔らかくして距離感を強調するが、近景に草や堤防などがあり、そのディテールを避けて柔らかいトーンを重ねるためには正確なマスク作成が必要だ。
液晶ペンタブレットに慣れると写真のレタッチにマウスやキーボードは要らなくなる。そのことは、机に向かうという束縛から解放されるということでもある。モニターに向かって端座するのではなく、大きめのチェアやソファにゆったりと座り、Cintiq 13HDを膝に抱えレタッチをするのは良い気分だ。リラックスして手元で写真を触りながら、作品として仕上げていくのだ。作品が自分の感性の表現であるからこそ、リラックスして表現するための時間を楽しみたいのである。
製品タイプ | 液晶ペンタブレット |
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表示サイズ | 13.3型 |
最大表示解像度 | フルHD(1,920×1,080ドット) |
液晶方式 | IPS方式 |
表示色 | 1,677万色/256階調 |
入力信号(デジタル) | HDMI |
筆圧レベル | 2,048レベル |
外形寸法 | 375 x 248 x 14mm(突起部、スタンドを除く) |
重量 | 本体約1.2 kg/スタンド約0.4kg |
» Cintiq 13HD製品紹介ページ |
日時 | 2月15日(土)15:00~15:45 |
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場所 | CP+2014会場・株式会社ワコムブース |
講師 | 茂手木秀行先生 |
内容 | 茂手木流・劇的仕上げ術をCintiqシリーズを使って実演 |
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