GANREF特別企画 金環日食で始める天体写真ガイド 5月21日の金環日食を撮影しよう!

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GANREF特別企画 金環日食で始める天体写真ガイド 5月21日の金環日食を撮影しよう!

 5月21日の日食が近づいてきた。今回の日食は、九州南部から四国、本州の太平洋側から東北南部にかけての人口密集地帯で金環が見られる日食で、GANREFユーザーの皆さんも注目していることだろう。日本国内で見られる金環日食としては、1987年9月23日の沖縄以来のもの。次に国内で見られる金環日食は2030年6月1日の北海道になる。東京で金環が見られるのはじつに173年ぶりという貴重なチャンス。ここでは、日食を撮影するための基礎的なことがらを確認しておこう。

執筆・撮影:飯島裕

1. 金環日食とは?

 日食をひとことでいえば、太陽の前を月が通過する現象だ。もちろん月はみずから光っていないので、太陽の前を真っ黒なシルエットとなって通り過ぎて行くことになる。 このとき、月と太陽の中心がずれて一部を隠して通過するのが「部分日食」、太陽の中心を通過して全体を覆い隠してしまうのが「皆既日食」、太陽を隠しきれずに光った部分がまわりにはみ出してしまうのが「金環日食」だ。

部分日食
(中心からずれている)
部分日食 イメージ
皆既日食
(月が近い)
皆既日食 イメージ
金環日食
(月が遠い)
金環日食 イメージ
イメージ日食のときは、地球に届いた月の影が西から東に移動していく。

 地球から月までの距離の平均はおよそ38.4万km、太陽まではおよそ1億5,000万kmの距離がある。月の400倍くらい遠くに太陽があるわけだ。一方で、月の直径は太陽の直径のおよそ1/400だ。そういうわけで地球から見る太陽と月がだいたい同じ大きさに見えるのだ。まったく本当にすごい偶然である。

 月が地球のまわりを回っている(公転している)が、その軌道は円に近い楕円軌道。したがって、月の見かけの大きさは、近いときと遠いときで1割くらいの変化がある。地球が太陽のまわりを回る軌道もわずかに楕円なので、この距離の変化の兼ね合いによって皆既日食になったり金環日食になったりするのだ。

 日食を見るときに、太陽の欠けた部分が月であることを思い出してほしい。そこには月があるのだ。そして、それぞれまでの距離の奥行きを空に思い浮かべてみよう。そうすれば、空に貼り付いた太陽が欠けているのではなく、自分たちが宇宙空間に浮かんで太陽のまわりを回っていることが実感できて感動できること間違いない。

2. 日食は危険!

 日食というと、昼間でも夜のようになってしまう皆既日食を思い浮かべる人も多いと思うが、じつは、金環日食はまぶしくて、肉眼で見ることはできないのだ。もちろん空は青空のまま。今回の日食では、金環になるときでも太陽面の10%くらいの面積が月に隠されずに残ってしまうからだ。もしも日食になっていることを知らなかったら、金環になっていることもまったく気付かないだろう。

 太陽の光と熱のおかげで我々は地球に暮らせているけれどそのエネルギーは強力で、短時間でも太陽を見ると、目に損傷を受けてしまうことになる。虫メガネで太陽の光を焦点に集めると、そこにあるものが発火することを知っていると思う。それを自分の目で再現することは絶対に避けたい。
そこで、

太陽を短時間でも直に見てはいけない!絶対に!!

 肉眼で見るときには、必ず市販されている日食観察用のメガネを使うこと。

日食メガネ イメージ 日食メガネ イメージ

眼視専用メガネ以外で安全に太陽を見ることができるものはないと思っていい。
もちろん撮影用のND(減光)フィルターでの眼視もダメ!
望遠鏡や双眼鏡で観察する時は、必ず専用の減光フィルターを確実に装着すること。
日食メガネや眼視観察用のフィルターを使用していても、肉眼で見る時間は最小限に。

 撮影するときはレンズの前(太陽の光が入るいちばん初めのところ)に太陽撮影用の減光フィルターを装着すること。

フィルター イメージ フィルター イメージ

日食の全行程の間、もちろん金環になったときも減光フィルターを使用する。
一眼レフカメラの光学ファインダーを覗くのもダメ! ライブビューで撮影しよう。
減光フィルターなしで長時間カメラを太陽に向けたままにしないこと。とくにコンデジ&ミラーレス。
(短時間なら大丈夫だが、イメージセンサーが損傷した例もある)

くれぐれも撮影には万全の準備と安全への配慮をお願いしたい。
特に子どもと一緒の場合は、思わぬ行動をすることがあるので格別の注意を払うこと。

3. 日食はどこでどう見える?

 太陽と月が一直線になったところで金環日食になるのだが、その地点は月の公転と地球の自転に伴って刻々と移動して行く。今回の日食では、地図のグレーの帯状の場所が金環日食が見られる場所(「金環食帯」という)で、その外側ではリングにならない部分日食になる。金環食帯の中心線上では、日食の最大の時に均一な太さのリングが見られるというわけだ。そして金環食帯から離れるほど太い部分日食になる。

地図» 大きい画像を見る

©国立天文台

 日食のときに宇宙空間から地球を見ると、地表にはぼんやりと丸い月の影が映っているのが見えるはず。今回の日食では、影の中心は日本付近で時速4,500kmというとんでもない速度で九州から福島へと駆け抜けて行くのだ。

 地上から見ると、月が太陽の前を西から東へ通過することで日食が起きるのだが、今回日本では日の出後の午前6時過ぎに欠け始め、9時過ぎに日食が終わる。これは、場所によって時刻や方位・高度が微妙に違ってくるので、撮影に当たっては自分の撮影地での正確な時刻を知っておきたい。

 私たちが日食を見るとき、どのように見えるかを詳しく知りたいときは国立天文台などの日食情報サイトで調べてみよう。

 例えば、東京での日食の経過を調べてみると、以下のようになることがわかる。
6時19分に太陽の右上から欠け始め(第1接触・食の始め)、徐々に月が太陽に食い込んでくる。そして7時32分に三日月形になった太陽の光がリング状につながり(第2接触・中心食の始め)金環食の開始、7時34分30秒ころに金環食の中心(食甚・食の最大)となってきれいな均一の太さのリングとなる。金環状態は7時37分ころまで続き(第3接触・中心食の終わり)部分食状態へ、そして徐々に太陽は太くなっていき、9時2分ころに日食が終わる(第4接触・食の終わり)。

 この間、太陽は東の空を斜め右上、時計でいうと1時の方向に昇っていく。東京では、高度20度ほどで欠け始め、日食の最大時は方位角89度の空にあって地平線からの高度は35度、日食の終了時には53度近くであることもわかる。(方位角は真北を0度にして東まわりに測った角度で真東が90度。高度は地平線が0度で頭の真上「天頂」が90度。)

 これも各地で微妙に変わるので、時刻と同じくあらかじめ正確な値を調べておこう。撮影には何より事前の正確な情報が不可欠だ。

 というわけで、日食のときには東の空が開けたところに行こう。日食とともに風景も写したいときには、その場所での正確な時刻・方位・高度を調べて、あらかじめロケハンしておこう。

コンパス  広い空で撮影する場合は、だいたい東の方向がわかればOK。簡単なコンパスでも十分だろう。もしも特定の建造物などとからめて撮影したいときは、なるべく正確に計れる方位計などを使用したい。

高度計  簡単な分度器に重りを下げるだけで高度計は作れる。三脚などに固定して高度を測ろう。

自分の体で高度を測る イメージ  腕をいっぱいに伸ばしたときのゲンコツの幅が約10度。天文ファンが角度を測るときによく使う方法だ。高度35度はゲンコツ3個半。目安にするにはこれでも十分。

ポータブル赤道儀  望遠レンズなどを使って太陽が欠けていく様子や金環日食のクローズアップを撮影するときは、天体の日周運動を追尾できるポータブル赤道儀があると便利。もちろん太陽だけではなく、月や星景の撮影領域が広がるので注目だ。