なぜプロは双眼鏡を使うのか? Featuring Nikon MONARCH HG

カメラのファインダー越しに見る像とは異なる双眼鏡の見え味

中野耕志中野耕志(なかの こうじ)
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、広告や雑誌等に作品を発表する。「Birdscape~鳥のいる風景」「Jetscape~飛行機の飛ぶ風景」を二大テーマに、国内外を飛び回る。近著に『デジタルカメラによる野鳥の撮影テクニック』(誠文堂新光社)、『デジタルカメラ飛行機撮影術』(アストロアーツ)などがある。所有している双眼鏡の数は4台。

野鳥撮影の極意は、野鳥の動きを先読みすることである。そのためには観察眼を養うことが重要で、それを手助けしてくれるアイテムが双眼鏡だ。野鳥撮影初心者の中には、カメラの望遠レンズで代用できると考える方も多いかもしれないが、じつは見え方に大きな差がある。観察することに特化した双眼鏡の見え味は、カメラのファインダー越しに見る平面的な像とは違い、明るく立体的で、野鳥の表情もつぶさに観察できて感動的ですらある。対象を識別するのはもちろん、行動を観察して“一手先”を読むためにも双眼鏡は必需品なのである。

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    夏鳥として日本に渡来する美しい小鳥、キビタキ。フィールドでの野鳥撮影では、体長20cmに満たない小鳥を10m以上離れた場所から観察・撮影することも多いので、相手を識別したり観察するために双眼鏡は欠かせない道具である。

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    野鳥を撮るときの基本セット。カメラとレンズ、三脚、そして双眼鏡。カメラはDXフォーマットの「ニコン D500」が最適。レンズは500mm f/4に1.4×テレコンを組み合わせて700mm f/5.6とし、35mm判換算1,050mm f/5.6相当で使うのが便利だ。三脚は頑丈かつ軽量なものを選びたい。

良い双眼鏡を使うことが撮影力の向上にもつながる

拡大写真を見る双眼鏡を選ぶときのポイントは、まず倍率と口径である。野鳥撮影においては倍率は8倍または10倍、口径は32mmまたは42mmが人気だ。同じ口径であれば8倍の方が明るいのと、野鳥を視野に導入しやすいという特長がある。10倍は8倍に比べると視界が狭いため野鳥を導入しづらく、また倍率が高いためぶれやすいという部分もあるが、慣れれば大きな問題ではないし、10倍は対象をより大きく観察できるという大きなメリットがある。口径は使用するフィールドにもよるが、薄暗い林内での観察では明るい42mmが有利だ。そのほか双眼鏡選びのポイントは見掛視界である。見掛視界は接眼鏡の視界の広さを表すが、見掛視界が広いほど実際に見える範囲である実視界が広く、対象の導入が容易で周りの状況も把握しやすい。一般に倍率が低いほうが実視界が広くなるが、見かけ視界が広ければ倍率が高くても実際に見える実視界も広くなるのだ。

双眼鏡のスタイルには幅広のポロプリズム型と、スマートなダハプリズム型がある。以前はポロプリズムのほうが光学性能が高く広視野という点で人気があったが、近年では製品加工技術の向上によりダハプリズムでも高性能なモデルが増え、いまやハイエンドモデルはダハプリズムが主流となっている。

良い野鳥写真を撮る人の多くは、良い双眼鏡を使っているものである。双眼鏡の良し悪しは観察力の向上、ひいては撮影力の向上につながるので、双眼鏡は高性能なものを選びたい。

双眼鏡を選ぶときにチェックすべきポイント
  • 倍率
    野鳥観察では8倍から10倍程度が使いやすい。視野の広さを優先する場合は8倍、少しでも大きく野鳥を見たい場合は10倍がおすすめだ。
  • 見掛視界
    同じ倍率なら見掛視界が広いほど実際に見える範囲が広い。野鳥は動きが素速いため、見掛視界が広い方が野鳥を導入しやすく追跡もしやすい。
  • 明るさ
    野鳥観察用双眼鏡では対物レンズの口径が32mmもしくは42mmのものが一般的で、薄暗い林内では42mmの明るいものが威力を発揮する。
  • 防水性
    いつ現れるとも知れない野鳥に対応するためには、双眼鏡は常に首に掛けておくもの。そのため双眼鏡は防水性が高いものを選びたい。
重さを感じさせない仕上げとクリアな見え味が魅力の
最新モデル「ニコン MONARCH HG」

ニコン
MONARCH HG

高性能だが手頃な価格設定のニコン MONARCH シリーズに「MONARCH HG 8×42/10×42」が登場した。対物レンズの口径はどちらも42mmで、倍率は8倍と10倍だ。42mmというと大きく重い印象があるが、MONARCH HGはボディにマグネシウム合金を採用し堅牢かつ軽量に仕上がっている。ED(特殊低分散)ガラス採用で色収差を補正したことや、レンズやプリズムに高品質多層膜コーティングを施したことで、解像力、コントラスト、そして自然な見え味を実現している。42mmながら重さを感じさせない仕上げとクリアな見え味は野鳥観察をより楽しいものにしてくれる。

» 中野耕志氏のMONARCH HGレビュー

双眼鏡の使い方の基本を覚えよう

双眼鏡の性能を最大限に発揮させるためには、正しい使い方を覚える必要がある。使い方といってもいたって簡単。使用前に各部調整を済ませれば、現場では対象物を捕捉してピントを合わせるだけで観察を楽しめる。

  1. 1 アイポイントを合わせる

    裸眼では接眼目当てを引き出して使用し、メガネ使用時は接眼目当てを引き出さずに使用することでアイポイントが合い、視野全体がケラレなく見られる。

  2. 2 目幅を合わせる

    両目で覗きながら左右の鏡筒を両手で持ち、開閉させることで目幅を合わせる。左右の視野がひとつの円形に見えれば両眼視できている証だ。

  3. 3 左目でピントを合わせる(視度調整1)

    両目の視度調整をするため、目標物を決めて左目だけで覗き、中心軸にあるピントリングを回してピントを合わせる。

  4. 4 右目でピントを合わせる(視度調整2)

    左目でピントを合わせたものと同じ目標物を、今度は右目だけで覗き、右側鏡筒にある視度調整リングを合わせてピントを合わせる。これで両目の視力差調整が完了する。

  5. 5 使用時には対象物を目指して双眼鏡を構える。

    まず肉眼で対象物を見つめて、間に双眼鏡を差し込むようにするとすんなりと対象物を導入できる。対象物の位置がわかりづらい場合は、近くの目立つ目標物を導入し、そこから辿るようにしていくのも有効だ。

収納時にはカメラや重いレンズの下にならないように

双眼鏡は壊れにくい構造ではあるものの、デリケートな光学製品には変わりない。収納時にはバックパックの雨蓋やサイドポケットなど、ほかの荷物の荷重や圧力がかかりづらいところに収納したい。