GANREF特別企画 金環日食で始める天体写真ガイド 5月21日の金環日食を撮影しよう!
日食は太陽と月が起こす天文現象だが、今年は日食の後も興味深い天文現象が続く。今回用意した撮影機材を、今回の日食だけでお蔵入りさせてしまうのはもったいない。これから見られる面白い天文現象にも役立てることができるので、日食撮影テクニックが生かせる現象をいくつか紹介をしておこう。
昨年12月の皆既月食は記憶に新しいが、今度は6月4日の夕刻、東の空に昇ってきた満月の右下が欠ける部分月食が起こる。月食が最大になるのは20時03分(日食と違って、その時に月が出ていればどこでも欠けぐあいは同じ)。満月の4割弱が地球の影に入り、赤黒く見えるはずだ。
満月は明るいので撮影はそれほど難しくない。日食撮影に使った望遠鏡や超望遠レンズがそのまま使える。もちろん減光フィルターは必要ない。東の空に低い月食なので地上風景ともからめやすい。写真的にも面白くねらえそうだ。
「皆既月食」(2011年12月10日)
月食の全行程を合成し、地球の影を表現した。
オリンパス E-5/オリンパス ZUIKO DIGITAL ED 150mm F2.0
金環日食は太陽の前を月が通過する現象だったが、6月6日には金星が太陽面を通過する。金星は我々の地球のひとつ内側の軌道を224日あまりで太陽を1周している惑星だが、わずかに軌道が傾いているため、内側から地球を追い越すときに必ず太陽の前を通過するわけではない。
これは8年の間をおいて起きたあと、次は105年もしくは124年後になるという周期の、じつは日食よりも断然珍しい現象なのだ。前回は2004年6月8日で今回はその8年後。ということは、これを逃すと我々が生きている間にはもう起こらないということ。次回は105年後の2117年12月11日である。
金星は太陽面にポツンと円いシルエットになって、およそ6時間半かけて太陽面を通過して行く。その直径は太陽のおよそ1/30だが、肉眼でも見える大きさだ。全国どこでも見え方はほぼ同じで、全行程が観察できる。
これを撮影するのは今回の日食を撮影したのと同じ方法でOK。ただ金星は小さいのでなるべく太陽を大きく撮影したいところだ。
「雲ごしの金星太陽面通過」(2004年6月8日)
厚い雲越しに見えた太陽と金星。減光フィルターは使用していない。
オリンパス E-1/ニコン10cm屈折望遠鏡(焦点距離1200mm)
金星食は、月が金星の前を通過して隠してしまう現象。このように月が遠くの星を隠してしまう現象を「星食(せいしょく)」という。
この日の明け方、明けの明星として輝いている金星を月齢25.5の細い月が隠す。まぶしい金星が、三日月のような形の細い月からこぼれた雫のように輝く様子がとても美しいだろう。月の影の部分が地球のレフ板効果でほんのりと見える「地球照(ちきゅうしょう)」も見逃せない。
朝焼けの空にぴったりと並んで輝く月と金星は、とても魅力的な被写体になるはずだ。
「夕空の2惑星と月」(2008年12月1日)
下から月・金星・木星。それぞれまでのの距離を想像してみたい。
オリンパス E-3/オリンパス ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0
「雲に隠れる月と金星」
月の影の部分が薄く見えるのが地球照だ。
オリンパス・ペン E-PL1/BORG45EDII+0.85倍レデューサー(焦点距離276mm)
今回日本で見られるのは太陽が月からはみ出してしまう金環日食だが、11月には月が太陽を完全に隠す皆既日食がオーストラリアで見られる。
皆既日食は何と言っても黒い太陽とその周りに真珠色に輝くコロナが魅力的。数ある天文現象の中でも最も見応えのあるものだといえる。天文ファンでなくとも一度は見ておきたい、そして撮影しておきたいものだ(一度見たら虜になること間違いない。「日食病」の罹患率ははかなり高い)。
すでにいくつもの日食ツアーが計画されているようだ。今のうちから計画を立てておいても早くはない。
画像提供:TOAST TECHNOLOGY
今回の日食で、難しくとも面白い太陽撮影にはまってしまう人も多いかもしれない(……と少し期待している)。日の出や日没の太陽の美しさはもちろんだが、太陽面に現れる黒点の変化なども普通は見えないだけに、生きている太陽を感じさせてくれて面白い。
あるいは、太陽面を撮影していてその前を横切る物体を撮影するのもチャレンジしがいのある撮影だ。例えば鳥、航空機、はたまた国際宇宙ステーションなどのシルエットも撮ることだって不可能ではない。狙いどおりにうまく決まったときの達成感は非常に大きい。
また、太陽とともに最もなじみのある天体の月も被写体として非常に魅力的だ。太陽のように強烈は光を放っているわけではないので、撮影のために特別なものを用意する必要はない。月の表面の明るさは、太陽から同じ距離にある地上の昼間の明るさと同じなのだ。
また、太陽と違って満ち欠けがあり、月齢ごとに表情が変わるところも魅力。欠け際に見えるクレーターをシャープに捉えるのも面白いし、おぼろ月もまた風情があって美しい。
もちろん天体撮影の魅力は太陽や月にとどまるものではない。私たちが見る風景の半分は空だし、一日の半分は夜だ。今回の日食を機会に、美しい天体の見せる光景にもカメラを向けてみてほしいと思っている。