GANREF特別企画 金環日食で始める天体写真ガイド 5月21日の金環日食を撮影しよう!
「AT-X 840 D」/実勢価格:6万円前後
「PRO300 1.4× DGX」/実勢価格:2万円前後
「PRO ND100000」/実勢価格:7,000円~1.5万円前後
この金環日食を機会に超望遠レンズの導入を考えている方もいるだろう。天体望遠鏡の方が大きくシャープに写せるのだが、大きく重いうえにマニュアルフォーカス限定で、他の用途にはなかなか使いにくいことは確かだ。その点超望遠ズームならば、日食だけではなく、野鳥や動物、スポーツ、航空機など、さまざまな撮影に使用でき、撮影の楽しさの拡大にもつなげやすい。
AT-X 840 Dは、35mmフルサイズにも対応した80~400mmの超望遠5倍ズームレンズだ。最大400mmという焦点距離にもかかわらず、全長136.5mm、重さ990gという驚くほどの軽量コンパクトさが特長である。フィルター径は72mm、もちろん三脚座も備えられていて、安定した太陽撮影が可能だ。
この小型軽量という特長は、同時に三脚も含めての軽量化が可能になるということ。日食撮影でも、前景とからめた太陽撮影にフットワークが生かせるだろう。特に超望遠撮影で、ピンポイントで地上物との絡みを考えた場合、太陽の日周運動のために秒単位でのカメラポジションの微調整が必要になるからだ。
400mmという焦点距離では、イメージセンサー面での太陽像の直径が約4mmになる。金環になる中心食をはさんで前後数分間の日食ハイライトで画面を構成するのには、35mmフルサイズやAPS-Cサイズのセンサーを持つ機種にちょうどいい焦点距離だ。
AT-X 840 Dはニコン用とキヤノン用が用意されている。今回はニコン D7000で使用してみた。装着状態はご覧のとおり。1.4倍テレプラスを使用し550mm(Exif記録値)という焦点距離でも携帯が苦にならないコンパクトさだ。400mm時には全長が5cmちょっと伸びるが、ガッチリした作りで質感や操作感もなかなか良い。
今回の日食では、東京での金環時太陽高度は地平線から35度ほどになり、雲台によってはパン棒が脚部にぶつかってカメラを上に向けられなくなることがある。そのようなときには、普段と前後逆方向にカメラをセットするといい。いつもカメラが上を向く太陽や星景撮影では、むしろこちらがデフォルト。
使用した三脚は新製品の「SLIK SC 703 DX」。300mm F2.8レンズ装着の35mmフルサイズ機に対応できるパイプ径32mmの大型三脚だ。超望遠の天体撮影では、最低でもこのクラスの三脚を使用したい。
少しでも大きく欠けた太陽を撮りたいという方には、超望遠レンズにテレコンバーターを組み合わせるという方法がある。テレコンバーターは撮影レンズとカメラボディの間に装着し、レンズの焦点距離を伸ばすというアタッチメントレンズだ。おもに2倍と1.4倍に焦点距離を伸ばすものが市販されている。テレコンバーターを使用して焦点距離を伸ばしても、レンズ全体の長さはわずかしか長くならない。また、最短撮影距離は元のレンズのままで、マクロ的な撮影にも使うことができるという点も見逃せない(日食には関係ないけれど……)。
デジタルテレプラスPRO300 1.4× DGXは、300mm F2.8レンズを基準に設計された1.4倍のテレコンバーターだ。300mmが基準といっても、もちろん他の望遠・超望遠レンズに使用してもだいじょうぶ。
テレコンバーターで焦点距離を伸ばすと実効絞り値が変わるという性質がある(1.4倍使用で絞り1段分、2倍使用で2段分暗くなる)が、デジタルテレプラスPRO300では、カメラ表示も、画像のExifデータの記録も実効絞り値になり、焦点距離も実焦点距離の記録になるので、非常にありがたい。
ケンコーのテレプラスは、50mmレンズを基準に設計した「MC4/MC7」シリーズと、300mm F2.8レンズにマッチした光学設計の「PRO300」シリーズの2ラインがあり、それぞれ1.4倍と2倍の製品がラインアップされている。今回使用したAT-X 840 Dのような超望遠ズームレンズには、PRO300シリーズの方が適していることはいうまでもない。
テレプラスは上の写真のように撮影レンズとカメラボディの間に装着して使用するが、撮影レンズの開放F値がF3.5より大きな場合にカメラによってはAFが使えなくなる点に注意が必要だ。
撮影レンズによっては、テレプラスを使用することによって画質がわずかに劣化することがあるので、2段ほど絞り込んだ方が良いこともある。日食本番前にあらかじめテストして確認しておきたい。
日食で太陽の欠けた形や金環食のリングを撮影するために必ず用意したいのがNDフィルター。NDとは「Neutral Density」直訳すれば「かたよりのない濃度」の頭文字で、色のバランスを崩すことなく減光できるフィルターということだ。
太陽撮影用に作られたPRO ND100000フィルターは、太陽の光を10万分の1に減光してくれる。このフィルターで太陽面を撮影したところ、トキナーAT-X 840 DにデジタルテレプラスPRO300 1.4× DGXを使用した焦点距離550mmでは、感度ISO 200、絞りF16で1/250秒というシャッター速度でほぼ適正露出になった。使いやすい濃度の減光フィルターだと言えるだろう。このフィルターは、平面研磨された光学ガラスに特殊なコーティングを施し、極めてニュートラル性が高く、色の再現性に優れているとのこと。
ちなみに、WBをデイライトにセットしたカメラでこのフィルターを使って撮影した太陽が黄色みがかっているのは、これで正しい。じつは、太陽は黄色みがかっている星なのだ。デイライトとは、太陽光と青空の色を合わせた光の色であることは、覚えておいてもいい。
日食撮影では、濃度の薄いフィルターを複数枚重ねて必要な濃度を得る方法もあるが、長焦点で太陽のクローズアップを撮る場合は、できる限りフィルターの枚数を減らしたい。フィルターの数が増えるほど画像のシャープさが損なわれてしまうからだ。
一方、日食の全経過を撮るような場合は、レンズの焦点距離も短いのでそれほど神経質になる必要はない。むしろ、途中で雲が出るような場合も考えて、臨機応変にフィルター濃度を変えられるように、ND400の2枚重ねなどで撮影するということもアリだ。
そしてやはりこのフィルターを使用していても、一眼レフカメラの光学ファインダーは使用しないこと。撮影専用に作られたフィルターなので、目を痛める可能性がある。必ずライブビューで撮影をしてほしい。
ケンコーの太陽撮影用PRO ND100000フィルターは一般的なねじ込み式丸枠に52mm、58mm、77mm、82mmの4サイズがラインアップされている。今回使用したAT-X 840 Dのフィルターサイズは72mm。72-77mmのステップアップリングを使用し77mmサイズのフィルターを装着した。このように、上記4サイズ以外のレンズにはひと回り大きいサイズを購入し、適合するステップアップリングで対応しよう。また、同じスペックの76mm、100mmの角型フィルターも用意されていて、天体望遠鏡などの機材にも合わせた選択が可能だ。
10万分の1の減光は、絞りの段数でいうと16と1/2段に相当する。うれしいことに、フィルターのパッケージには簡単な金環日食撮影ガイドブックが同梱されていて、露出決定の参考になるデータも記載されている。
日食が近づくと、太陽撮影用のフィルターが品薄になるのは恒例のことだ。なるべく早く入手し、十分なリハーサルをしてから5月21日の本番に臨みたい。
カメラ:ニコン D7000/レンズ:トキナー AT-X 840 D 80-400mm F4.5-5.6(400mmで使用)+トキナー デジタルテレプラスPRO300 1.4× DGX(Exif記録焦点距離550mm)/フィルター:ケンコー PRO ND100000/露出モード:マニュアル/絞り:F16(実効F値)/シャッタースピード:1/250秒/ISO感度:200/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/JPEG L/FINE
カメラ:ニコン D7000/レンズ:トキナー AT-X 840 D 80-400mm F4.5-5.6(400mmで使用)/フィルター:ケンコー PRO ND100000/露出モード:マニュアル/絞り:F11/シャッタースピード:1/500秒/ISO感度:200/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/JPEG L/FINE
焦点距離 | 80~400mm |
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明るさ | F4.5~5.6 |
最小絞り | F32 |
レンズ構成 | 10群16枚 |
コーティング | 多層膜コーティング |
画角 | 29°50'~6°13' |
最短撮影距離 | 2.5m |
マクロ最大倍率 | 1:5.4 |
フィルターサイズ | 72mm |
ズーム方式 | 回転式ズーム |
絞り羽根枚数 | 8枚 |
最大径 | 79mm |
全長 | 136.5mm |
重さ | 990g |
付属品 | バヨネットフード(BH-725) |
対応マウント | ニコン:4961607-634011、キヤノン:4961607-634028 |
希望小売価格(税込) | 102,900円 |
倍率 | 1.4倍 |
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露出倍数 | 2倍(1絞り分) |
レンズ構成 | 4群5枚 |
コーティング | マルチコート |
鏡筒長さ | 28.0mm |
鏡筒径 | 63.0mm |
重量 | 134g |
希望小売価格(税込) | 29,400円 |
フィルターサイズ | 52mm、58mm、77mm、82mmの4サイズ |
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希望小売価格(税込) | 52mm/8,800円、58mm/10,800円、77mm/16,800円、82mm/19,800円 |