GANREF特別企画 アイソン彗星撮影術&おすすめアイテム

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GANREF特別企画 アイソン彗星撮影術&おすすめアイテム

レポート:飯島 裕

12月3日更新アイソン彗星は核崩壊!? アイソン彗星の情報とまだまだ続く星の楽しみ方

※GANREF特別企画「アイソン彗星撮影術&おすすめアイテム」の記事は2013年11月15日に公開しました。記事の内容はアイソン彗星に限らず、彗星などを被写体とした星景写真全般に有益な内容と考えますのでご覧いただけると幸いです。(GANREF編集部)

この11月末から12月にかけて「アイソン彗星」がやってくる。あの、夜空に不思議な尾を引いて輝くほうき星だ。かなり大きな彗星になるのではないかとの期待から近ごろ大きな話題になっているので、その名前は天文ファン以外にもずいぶん知られてきた。
このアイソン彗星、われわれの住む北半球では実に久しぶりの大彗星になりそうだ。早く撮影したいと期待しながら待ち構えている人も多いことだろう。また、星は撮ったことはないが、このめったにないチャンスをモノにしたいと考えている人もいるに違いない。
星空撮影が初めての人も経験者も、その本番を控えた今、ここであらためて彗星を撮る方法を確認しておこう。

アイソン彗星基礎知識

彗星とは?

解説図

彗星の構造(彗星の2種類の尾) 彗星核から蒸発したガスの尾は青っぽい色で写真に写り、核から放出された細かいちりの尾は白っぽく写る。軽いガスの尾は太陽風(太陽から吹き出してくるプラズマ)に吹き流されて太陽と反対方向にまっすぐ伸びるが、重いちりは彗星核からゆっくり離れていくため、いくらか後方にカーブを描く。

 前触れなく星空に現れ、不思議な尾を伸ばして日に日に星々の間を移動していく不思議な天体「彗星」。その形からほうき星とも呼ばれる彗星の正体は、氷と砂粒やちりが固まったもので、よく「汚れた雪だるま」のようなものと例えられている。このような直径数百mから数十km程度の小さな天体「彗星核」が太陽系の彼方から放物線や細長い楕円軌道で太陽に接近してくるのだが、太陽に近づいたときにその強力な熱と光によって表面から大量のガスやちりを放出するようになり、それが尾となって伸びて見えるようになる。
 彗星は46億年前に太陽系が誕生したころのままの状態を保っていると考えられている。つまり、惑星を生み出すもととなった原始太陽系星雲の化石のようなもので、天文学者は太陽系生成の謎に迫ろうと、彗星を観測するわけだ。

 彗星で最も特徴的なのは、やはりなんといっても尾の存在だろう。それは彗星核から放出されたガスやちりが太陽の影響によって吹き流されたもので、常に太陽と反対の方向に長く伸びる。だから、尾を後方になびかせて宇宙空間を高速で飛んでいるというイメージはまったくの勘違いだ。尾はいつも太陽と反対方向に伸びるので、太陽に近づいてくるときは後方に、太陽を回り込むときは横の方向に、そして太陽から遠ざかっていくときは前方に尾が伸びているということになる。

 彗星も軌道上を運行する太陽系の天体のひとつなので、惑星と同じように星空の間をゆっくり移動していく。高速で宇宙を飛んでいるような見た目に反して、その動きは肉眼ではまったくわからない。地球から見ると星空の一角に浮いて見え、ほかの星と一緒に日周運動で東から西の空に移動していく。
 彗星の尾は、彗星が太陽に近いほど長く伸びて明るくなるのだが、太陽に近いときは内惑星の水星や金星と同じように、夕方の西空や明け方の東の空で短い時間しか見ることができないのだ。

作例

「C/1996 B2 百武彗星」1996年3月に地球に大接近し、夜空をまたぐような長大な尾を見せてくれた百武(ひゃくたけ)彗星。熊本県の百武裕司さんが発見した、20世紀を代表する大彗星だ。

35mmフィルムカメラ/16mm F3.5対角魚眼レンズ/ISO 1600ポジフィルム/追尾撮影

作例

「C/1995 O1 ヘール・ボップ彗星」1997年3月~4月にかけて8週間もの間0等級の明るさを保ち、8ヶ月もの長期間にわたって肉眼で見ることのできた大彗星。太陽からの距離が遠かったものの、彗星核本体が巨大だったため、長期間明るい大彗星として夜空に君臨していた。

35mmフィルムカメラ/180mm F2.0レンズ/ISO 400ポジフィルム/追尾撮影

作例

「C/2011 L4 パンスターズ彗星」今年の春、夕空に見ることができた彗星だ。彗星はそこそこ明るかったが、太陽との位置関係が悪く、明るい夕空の中に探すのが難しかった。だが、扇形に広がったダストの尾は大彗星の風格を感じさせてくれた。

ミラーレス一眼カメラ/35mm判換算200mm相当の望遠レンズ/F2.5/15秒/ISO 400/追尾撮影

アイソン彗星はどんな彗星?

解説図

アイソン彗星の軌道 アイソン彗星は11月29日に太陽に最接近する。軌道は非常に細長く、太陽に接近するのはこの1度きりと考えられている。彗星の軌道面は地球の公転面に対して斜めに交わってる。彗星軌道の破線部分は、地球の公転面の南側に位置するところ。

 彗星は太陽の回りを細長い楕円軌道で周回するハレー彗星のような「周期彗星」と、放物線や双曲線の軌道で一度しか太陽に接近しない「非周期彗星」がある。その違いは彗星の出身地の違いによるものだけれども、周期彗星ももともとは非周期彗星と同じで、太陽系の惑星の影響で周期的な軌道を持つようになったものだ。
 アイソン彗星は太陽接近が1回きりの非周期彗星。今回太陽に接近すると再び太陽系の彼方に飛び去り、また戻ってくることはないと考えられている。まさに一期一会の天体である。

 発見されたのは2012年9月で、発見者が所属する国際科学光学ネットワークの略称(International Scientific Optical Network:ISON)が名前となった。
 アイソン彗星が太陽に最接近するのは2013年11月29日。彗星の明るさや尾の長さの予想は大変難しいのだが、アイソン彗星は太陽表面からわずか117万kmという至近距離まで接近するサングレーザー(太陽をかすめる彗星)と呼ばれる彗星で、しかもそこそこ大きな核を持っていることがわかっている。これがかなり大きな彗星になるだろうと予想されている理由だ。しかも、太陽接近後地球にどんどん近づいてくるという理想的な軌道で、地球との位置関係からわれわれの住む北半球が最適な観測条件!
 いったいどんな姿で現れてくれるのか、もしかしたら世紀の大彗星になるかも? と、大いに期待されているわけである。

アイソン彗星はいつ、どこに見える?

解説図

アイソン彗星が見える位置 日の出1時間前にアイソン彗星の見える位置。彗星は、真東より若干南の位置に昇ってきて、日周運動で右斜め上に移動していく。彗星の見える位置はかなり低空だ。東の地平線まで見渡せる場所を探しておこう。

 今、アイソン彗星はどんどん太陽に近づいてきているところで、太陽に最接近するのは11月29日の3時30分ごろ。そのときの最大光度はマイナス6等級になると予想されているが、実際にどれくらい明るくなるのか、はたまたどれくらいの長さに尾が伸びてくれるのか、こればかりは専門家でも実際に来てみないとわからないというのが正直なところだ。
 その最接近時には太陽に近すぎて見ることは難しく、実際に見栄えのする姿を見せてくれるのは、徐々に太陽に近づいていく11月中旬から11月24~25日くらいまでと、太陽最接近後の12月3~4日から12月中旬くらいまでと予想されている。特に注目したいのは太陽最接近後で、明るく長大な尾を見せてくれそうだと期待されているのだ。普通の彗星に比べ太陽に大接近するアイソン彗星だが、どのような変貌を遂げるか、実に楽しみなところである。

 アイソン彗星が見える空は、主に太陽接近前も接近後も太陽が昇ってくる方向、明け方の東の低空だ。あらかじめ東の地平線まで開けた見晴らしのいい場所を探しておこう。
 太陽に近すぎて観察の難しい最接近前後の数日間でも、透明度よく空が晴れてくれれば、青空の中にぽつんと彗星が輝くという珍しい光景を見ることができるかもしれない。ただし、太陽の近くなので望遠鏡や双眼鏡を使うときは、十分な注意が必要になることは言うまでもない。

双眼鏡で見てみよう!

作例

双眼鏡のスペック表示これはニコン双眼鏡「MONARCH 7」のピント合わせリング。そこに記された「8×42 8°」がこの双眼鏡のスペックで、「倍率8倍・対物レンズ口径42mm・実視界8°」という意味になる。この表記法はどのメーカーでも基本的に同じだ。製品解説を読む

 肉眼で見える明るい彗星といっても、やはりできるだけハッキリとその姿を見てみたいもの。彗星のように淡く広がった天体を観察するのには、視野の広い明るい双眼鏡が一番いい。淡く伸びた尾がよりハッキリと見えることはもちろん、薄明の空で探しにくい場合にも絶大な威力を発揮することだろう。
 彗星観察に適した双眼鏡は、天の川や星雲・星団などを眺めるのにも適している。視野いっぱいに広がる星々の美しさは双眼鏡ならではのものだ。もちろん月のクレーターも見ることができるし、星の撮影に出かけるときは、双眼鏡もぜひ一緒に持っていってほしい。

 光の乏しい天体を見る場合の双眼鏡選びで重要なのは、集光力と視野の明るさ。さらに点光源の星を見るのに適したシャープさや、淡い彗星や星雲などがスッキリと見える視野の抜けの良さも重要な要素となる。
 集光力は対物レンズの口径で決まる。もちろん大きければ大きいほどたくさんの光を集められるわけだが、口径が大きいと双眼鏡自体も大きく重くなるので、そのバランスの見極めが双眼鏡選びのポイントだ。星を見る目的なら、最低でも口径30mm以上のものを選びたい。大きさ・重さが大丈夫であれば、口径40~50mmのものが欲しいところだ。
 双眼鏡で一番気になるところは倍率かもしれない。これはできるだけ低倍率がお勧めだ。というのも、倍率が高いものは手ぶれが目立ってしまうし視野も暗くなってしまうから、結局のところ、小口径高倍率の双眼鏡は、使いにくいだけのものになってしまうのだ。

 また、対象が点光源の星空を見るということは、双眼鏡にもハイレベルな光学性能が求められることになる。それに淡い天体や夜空に浮かぶ月のような輝度差の大きい対象の観察では、内面反射やレンズの表面反射によるフレアやゴースト対策の徹底しているものが欲しいところ。星の撮影と同様、双眼鏡にとっても天体は厳しい対象なのだ。
 意外とこのあたりのスペックに現れない性能は軽視されがちだけれども、丁寧に作られたハイレベルな双眼鏡で星空を見てみると、もう後戻りはできないほどの差があることがわかるだろう。

 というわけで、もしも彗星を見るために双眼鏡を新調するのなら、丁寧に作られた口径40mmから50mmくらいで7倍から8倍くらいのものをお勧めしたい。手持ちで使用する場合、これくらいが双眼鏡の大きさ・視野の明るさ・倍率のベストバランスである。ただ、40mmでも人によっては大きすぎると感じる方もいるだろう。カメラと一緒に持ち運ぶときなど、もっと小さいものがいいという人もいるだろう。そうしたときには、口径30mmの低倍率機も選択肢として考えられる。

 50mm以上の口径があれば多少倍率が高くなっても視野の明るさは確保されるので、さらに迫力のある彗星が楽しめる。10倍以下なら手持ちでもなんとかいけるが、できれば三脚アダプターでカメラ三脚に固定したい。大口径双眼鏡で眺める星空は絶品。彗星の尾に見える流線など、より細部まで楽しめるはずだ。

 一期一会のアイソン彗星。もちろん写真にも撮っておきたいけれど、自分の目にもその輝きをしっかりと焼き付けておきたいもの。双眼鏡は彗星だけでなく星空をいつでも楽しめるし、ほかにも自然観察をはじめ、あらゆる場面で役に立つ機材だ。アイソン彗星を機会に、写真撮影のパートナーとして1台はいいものを手元に置いておくことをお勧めしたい。

アイソン彗星を撮る

撮影に適した場所とは?

作例

「薄明の太平洋に昇るパンスターズ彗星」月明かりの太平洋に昇ってきたパンスターズ彗星とアンドロメダ銀河M31。東に向いた海岸線は、アイソン彗星撮影の最適ポイントのひとつだ。

 前にも述べたとおり、アイソン彗星が見えるのは太陽接近前も後も主に東~東南東の明け方の空だ。あらかじめその方向が地平線まで見通しのいい開けた場所を探しておこう。
 写真に撮りたい相手は明るくなるとはいえ、淡い彗星である。できれば東側に大きな都会など人工の明かりがない場所が望ましいことは言うまでもない。具体的にいくつか候補となるような場所を挙げるとすると、大きな川の河川敷や堤防の上、照明のないグラウンド、開けた田園地帯や牧場などの農道、東側に展望のきく山の上の展望台や駐車場、東に向いた海や湖の岸辺などが好条件。もちろんこれに限らず、個性的な作品に仕上げたい方には、彗星の現れる位置を考慮して、さまざまな場所で狙ってもらいたい。

 彗星の尾をできるだけクッキリ撮影するには、空気の澄んでいる標高の高い所の方が条件はいい。ただ、11~12月には場所によっては積雪や凍結の恐れもあるので、クルマで行くときは十分に気をつけよう。
 より身近な河川敷やグラウンドでは、夜間立ち入り禁止の場所もある。また、ひと晩中照明がついている場合もあるので、あらかじめ想定される撮影時刻にロケハンをして確認しておきたい。また、田園地帯や牧場などでは、私有地に踏み込むことが絶対にないように。彗星の撮影好適地でマナーを守れない人が続出すると、もう二度とその場所で撮影することができなくなってしまうかもしれない。天文や写真の愛好家として、それだけは最低限守ってもらいたいところだ(ここ重要!)。

アイソン彗星撮影おすすめアイテムコレクション

必要なカメラとレンズ

作例

カメラの露出モードはマニュアル星空の撮影は、基本的に絞りもシャッター速度もISO感度設定もすべてマニュアル。夜の暗い中でも操作にまごつかないよう、自分のカメラの操作方法をきちんとマスターしておこう。

作例

レンズもマニュアルフォーカス(MF)レンズももちろんマニュアルフォーカスで使う。手ぶれ補正(レンズ内蔵・ボディ内蔵のどちらも)もOFFにすることを忘れずに。製品解説を読む

 彗星の撮影は、星空を普通に撮るのとなんら変わりはない。ピント合わせと露光調整(感度・絞り・露出時間)はマニュアルで制御する必要があるので、それらがマニュアル設定のできるカメラであることと、30~60秒程度の長時間露光のできることが最低条件だ。それには一眼レフカメラやレンズ交換式のミラーレスカメラが最適だ。マニュアル撮影やオートでも長時間露光さえできれば、レンズ一体型のコンパクトカメラでも撮影は可能である。

 アイソン彗星の尾は、最も長く成長したときに角度にして10度くらいにはなりそうだとの予想がされている。もしかしたら30度以上に大化けしてくれることもあるかもしれない(と期待したいところ)。だからどうしても望遠レンズが必要ということはなく、35mm判で焦点距離50mm前後の標準画角のレンズでも、結構迫力のある写真が撮れることだろう。もしかしたら広角レンズが必要になるかもしれない(そうなったらうれしい!)。
 できれば露出時間を短くできるF値の小さな明るいレンズが望ましいけれど、エントリー機のキットレンズでも朝焼けの中や星空に輝くアイソン彗星を撮ることは十分に可能なので、ぜひ多くの人に撮影にチャレンジしてもらいたいと思う。

ピント合わせと露出の決め方

 星の撮影では、低輝度なのでAFを使うことはできない。カメラをマニュアルフォーカスに設定し、手動でピント合わせをする必要がある。有限距離にある立体的な被写体でピントの位置がずれるのと違い、星の撮影ではわずかなピントずれでも画面全体がピンぼけになってしまうから、できるだけ精密にピント合わせをしたい。これには、ライブビューの拡大マニュアルフォーカスが最も確実な方法だ。

 まず使用するレンズのピントリングをだいたい無限遠に合わせ、三脚に取り付けたカメラをそのとき見えている最も明るい星に向けてみよう。画面には星の像が見えるはずだ。そこで映っている星の像を拡大し、ピントリングを回して星の像が最も小さくなった所が合焦位置だ。その後のカメラ操作でピントがうっかりズレてしまわないよう、ピントの合った位置でピントリングをテープで固定してしまうといい。
 星のピントは微妙なので、気温が変わるとレンズや鏡胴の膨張収縮のためにピントがずれてしまうこともよくある。だから、できるだけシャッターを切る直前にピントを合わせるようにしたい。また、ズームを使用するとピントがずれるので、焦点距離を変えた際には、その都度ピント合わせをやり直すことが必要になる。

 ピントと同様に、カメラの露出計も星相手では使えないので自動露出で撮影することができない。だから試し撮りを行って露出を決めるのが簡単で確実な方法だ。
 だいたいの目安として、露出時間は、ISO 1600・F2.8のとき、都市部の郊外で4~15秒くらい、地方の山間部や海岸など空の暗い所では30~60秒くらいを目安にして試し撮りを始めてみよう。試し撮りの画像は必ずヒストグラムで判断するように。暗い中ではカメラのモニターが実際よりずいぶん明るく見えてしまうので、画像の見た目で判断すると、実際に撮れた写真は全然露出不足ということになってしまう。ヒストグラムのピークが左から1/4~1/3くらいの所に来るような露出を目指して、露出時間や感度を増減して本番の露光量を決めよう。

 露出を決める際に気をつけなければならないことは、アイソン彗星の見える方向では、広角レンズでも60秒の露出時間で星の像が日周運動でわずかに伸びてしまうことだ。星空の被写体ぶれのようなものだけれど、星が点に見えるように撮るためには広角レンズでは露出時間は長くても60秒以内に、標準レンズでは20秒程度になるように絞りと感度を設定する必要がある。
 また、アイソン彗星撮影時には薄明が始まって空が徐々に明るくなってくるので、撮影の都度ヒストグラムを確認しながら、露出時間や感度を調節することが必要だ。

 シャッターを切るときには、カメラをぶらさないように細心の注意を払おう。点光源の星の撮影では、ほんの少しのぶれでも非常に目立ってしまうのだ。
 カメラぶれを防ぐには、できるだけ重く丈夫な三脚を使用し、雲台や三脚各部のネジはしっかりと締めつけておくこと。三脚のエレベーターは使用せず、脚を伸ばすのも最小限に。シャッターを切るときはリモコンを使用し、カメラに直接手を触れないこと。マニュアルで30~60秒のセッティングができるカメラの場合は、セルフタイマーを使用してシャッターを切るのもいい方法だ。

 気になる高感度ノイズだが、これは控えめにした方が微光星や彗星の細部描写にいい結果となることが多い。RAWで撮影しておけば現像時に好みでノイズ低減フィルターの調整ができるので、できればRAWで撮影しておくといいだろう。
 また、長秒時のノイズは、気温が低く露光時間が短いほど少なくなる。しかし、カメラによってノイズレベルはさまざま。あらかじめ自分のカメラはどうなのか、本番と同じような気温条件で試し撮りをし、どれくらいの長時間露光までいけるか、確認しておくといい。基本的には長秒時ノイズリダクション(長時間露光のノイズ低減)を使用することをお勧めする。

製品画像 製品画像

ライブビューの拡大表示でMFファインダーのセンターに明るい星を入れ、ライブビューを最大倍率まで拡大。ゆっくりピントリングを回して、星の像が一番小さくなった所がベストフォーカスだ。あらかじめピントリングを無限遠付近にしておくと、ライブビューのモニターで星を見つけやすくなる。

製品画像

シャッター速度を何段階も変えて、多めに段階露出をしておこう。撮影した画像の明るさは、必ずヒストグラムを表示して確認すること。

固定撮影と追尾撮影

撮影風景作例

リモコンでシャッターを切る固定撮影でも追尾撮影でも、リモコンを使用してそっとシャッターの開け閉めを行う。リモコンのケーブルを三脚に結ぶなどして、カメラに直接揺れが伝わらないようにしておこう。製品解説を読む

 カメラを三脚に固定して長時間露光で撮影する方法を、天体写真のジャンルでは「固定撮影」と呼んでいる。これは普通の夜景撮影とまったく同じことなのだが、このような撮影方法では、星が日周運動で移動していくところが光跡となって写るわけだ。

 星の日周運動は意外と速い。天の赤道上(真東から昇り真西に沈む)にある星だと1時間で角度にして15度進む。広角レンズで1分程度の露光時間でも、いくらか星が伸び始めて写るくらいだ。天の赤道から南北に離れるほど動きが遅くなるので星の伸びは少なくなるが、アイソン彗星は真東近くから昇ってくるので、肉眼で見るように星を点像に見せたい場合、できれば露光時間を30秒程度にとどめておきたいところ。これには明るいレンズが有利なことは言うまでもないことだろう。

 より精細な彗星の画像を撮りたいということであれば、日周運動を追尾する装置を使用したい。「モバイル赤道儀」「ポータブル赤道儀」「コンパクト赤道儀」などと呼ばれるものがそれで、今ではカメラでの星空撮影に特化したものがいろいろ製品化されている。
 これは要するに、地球の自転速度と同じ速度で逆回転する軸「極軸」を備えたターンテーブル。天体の日周運動に合わせてカメラを常に星空の同じ所に向け続けてくれる装置だ。このように赤道儀を使い星を追いかけて撮影する方法を「追尾撮影」という。

 追尾撮影では、日周運動を追うことで暗い天体でもシャープに写し止めることができるようになる。これで彗星の尾の伸びを暗い所までさらに長く、また細かい構造までシャープに写せるわけで、追尾撮影ができれば、天体を写す面白さがグッと増すこと間違いない。目に見えない所までクッキリと見えるようになるのが、天体撮影の面白いところなのだ。
 もちろん赤道儀は彗星を撮るばかりでなく、天空を大きく流れる天の川の撮影や、星空のあちこちに点在する星雲や星団などの天体のクローズアップ撮影も楽しめるようになる。より深く星の撮影を極めてみたいと思う方は、ぜひ追尾撮影にも挑戦してみてもらいたい。
 実際にアイソン彗星を撮影するときには、前景となる地上の風景をシャープに見せたいのか、あるいは彗星本体をシャープに見せたいのかによって、固定と追尾のどちらでいくかを決めるといいだろう。

彗星画像を仕上げる

コントラストの低い星空

作例

カメラのメニュー画面で設定あらかじめコントラストは高めにしておくのもひとつの手。星の写真では、シャープネスを最低(効かせない)にしておこう。星の光が自然な描写になる。

 星の写真を撮ったことのある方は、どうにもシャッキリとしないなぁ? と感じたことがあると思う。実は星空は天の川が見えるような条件のいい空でも非常にフラットで、そのままではどうしてもメリハリのない画像になってしまうのだ。また、どうも夜空の発色がイメージどおりにならないということもあると思う。それを階調豊かで気に入った色調の写真に仕上げようとすると、RAWで記録し、RAW現像ソフトで丁寧に仕上げることが必要になる。

 とはいえ、RAW現像はハードルが高いなぁ、という方もおられるだろう。そのようなときは、あらかじめカメラのコントラストを高めに設定しておくといい。また、夜空の色がイメージどおりにならないのは、実際の夜空には星の光だけでなく、街の明かりが反映し、いろいろな色の光が混ざっているからだ。
 夜空の色のイメージというと若干青みがかった暗い色という感じだと思うが、ホワイトバランスを4,000Kくらいに手動でセットしてやるといい感じになることが多い。それに水銀灯のグリーンが多めにかぶる場合は、若干マゼンタ側にバランスを振ってみよう。意外と「蛍光灯」のプリセットがハマることもある。

RAW現像のコツ

作例

撮影したままの画像はメリハリがなく、非常にねむい画像だ。ヒストグラムのピークが中央付近になるくらいにたっぷり露出をかけておくほうが、RAW現像でコントラストの調整がしやすく、画質も良くなる。このときのホワイトバランスは撮影時の「オート」のままの状態。

作例

普通の風景写真ではあり得ないほどトーンカーブをS字に曲げるのが星空の写真だ。R・G・Bごとにも若干調整しカラーバランスを整えている。ホワイトバランスは4,000Kに設定。

 同様の操作は、RAW現像時の調整でも基本的に同じ。さらにRAW現像では、トーンカーブで微妙な階調のコントロールが可能になる。
 彗星は頭部が明るく尾の先にいくに連れて暗くなっていくが、背景の夜空から浮き出るような階調にするためには、トーンカーブをS字形に曲げるようにし、センター付近の傾斜部分の傾きを大きくしてコントラストを高めるのが基本。頭部の白飛びを抑えつつ、S字カーブの傾斜部分の位置を左右に微調整し、S字カーブの曲がり具合をコントロールしながら最適ポイントを探してみよう。

 RAW現像でのトーンカーブ調整やホワイトバランスは、星空の場合、撮影時の天候や撮影地の条件、撮影時刻によって一概に決めることができない。こればかりは試行錯誤を繰り返すしかないのだが、操作結果を確認しながらいくらでもやり直しがきくのがデジタル撮影のいいところ。満足いくまでじっくりと画像の仕上げを楽しむとしよう。

 RAW現像で階調操作をすることを前提に、撮影条件が許せば、撮影時にヒストグラムのピークが中央に来るくらいに露出を多めにかけておくのもちょっとしたコツ。明るめの画像に撮影しRAW現像で背景の夜空を引き締めるようにすると、高感度ノイズを抑えつつ階調の豊かな画像に仕上げることができる。

 レンズ、撮影地、前景、撮影方法、RAW現像と仕上げ、同じアイソン彗星でも撮り方は無限大。ぜひ個性的な作品をモノにしてほしい。と同時に、自分の目で彗星の輝きを楽しむことを忘れないでもらいたい。一期一会の大彗星。写真を撮るテクニックよりも、まずは相手をよく知り自分の目でよく見ること。実は、これが写真を撮るうえで一番大事なことなのだ。

アイソン彗星撮影おすすめアイテムコレクション