Lightroom ClassicとPhotoshopで「画像化」を行う
「物語を伝える」ためのワークフロー
物語を伝える写真を作るためのワークフローは、①テーマを考える、②撮る、③掘る、④撮る、となる。単に撮るだけでなく、その後にテーマを掘り下げて、また撮影することが大切だ。そして、⑤セレクトして画像化(調整や仕上げ)していく。ただし、このワークフローは一度で終わらせるのではなくて、何度も何度も繰り返してから、作品としてまとめるようにしてもらいたい。
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テーマを考えてから画像化までを行ったら、再び撮る、掘る、撮る……と何度も繰り返す。その段階を踏んでから写真をまとめることで、写真にストーリー性が生まれてくる。それぞれの段階で、LightroomシリーズやPhotoshopなど、目的に適したソフトを使うと検討しやすい。
今回は、これらの作業の中で、Lightroom ClassicとPhotoshopを使ったセレクトと仕上げ方ついて紹介しよう。撮影した写真はLightroom Classicに取り込んでいて、そこでセレクトを行っている。使用する機能は「レーティング」(★印)と「カラーラベル」で、サムネールに★印を付けたり、色を付けたりして分類していく。
ショートカットキーを使うことで効率よくセレクトできる
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主要なセレクト機能が「レーティング」。サムネール下の「・・・・・」をクリックすると設定できるが、キーボードの「1」キーを押すと★、2キーを押すと★★のように、キーボードを使う(0~5キー)と簡単。 -
サムネールを「レッド」や「イエロー」などの5色で色分けする「カラーラベル」も使っている。サムネール右下のアイコンや右クリックメニューから選べるが、一部の色はキーボード(6~9キー)を押しても設定可能。
「レーティング」と「カラーラベル」のルールとしては、まずは気になった写真に「★」を付けて大まかにセレクト。それからもう一度見直して「★★」を付けるというように、★の数を増やしてセレクトを追い込む方法が分かりやすい。つまり、セレクトが進むということは、★の数が増えることと同義だ。「カラーラベル」に関しては、調整の状態によって「レッド」や「イエロー」を付けて管理している。
Lightroom Classicの場合、これらの機能を使うことで「フィルター」による写真の絞り込みがしやすくなる。たとえば、「★★★だけ」を表示してセレクトの段階別に確認したり、「カラーラベル」を指定して調整の有無別に表示したり、最終的にまとめるべき写真だけを表示して「テーマに対する目の付けどころ」を確認したりなど。あらゆる段階や状態ごとに写真が見直せる点がとても便利だし、クオリティーアップには欠かせない機能だ。
セレクトしたら「フィルター」機能で表示を絞り込む
1セレクトした写真をLightroom Classicで記憶色に近づける
写真のセレクトが進んだら、「画像化」を行っていく。「画像化」とは、そのままでは見ることができないRAWで撮影した写真を、Lightroom Classicに読み込んで写真の状態にすること。僕はこの作業を「画像化」と呼んでいる。作業の流れとしては、Lightroom Classicで写真を表示(画像化)して色を調整、その後にPhotoshopで仕上げを行う。まずは、Lightroom Classicを使った調整の仕方から。
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Before[色調整前]
この写真は、「半島」をテーマにして撮影している作品の一枚で、紀伊半島で写したもの。雨上がり後の夕刻に森に入り、林業を営む若者たちを撮影。ホワイトバランスを「太陽光」に固定しているため、夕方の雰囲気などが伝わりにくい。 -
After [仕上げ]
Lightroom Classicでホワイトバランス(色温度)を調整し、光に黄色い印象を出す。さらに、Photoshopの「トーンカーブ」でシャドウやハイライトの色を調整したり、人物周囲の明るさを補正することで、記憶している色彩に仕上げている。
僕の場合、Lightroom Classicの調整で比較的大きなウェイトを占めるのが、ホワイトバランスに関する作業。僕はひとを撮っているので、撮影の現場でカメラの設定に惑わされないように、ホワイトバランスは「太陽光」に固定している。そのため、現場の色と写真の色が異なってしまうことが多い。
調整する写真は、雨上がり後の夕方に森の中で撮影したものだが、現場で感じた色、いわゆる「記憶色」との違いが出てしまっている。撮影の現場で感じた夕刻の暖かな光が再現されていない。ほかにも、シャドウ付近の湿度感や、人物周辺の明るさなども気になるところだが、Lightroom Classicの役目は「大まかな色の調整」にある。細部の仕上げはPhotoshopに任せればよいので、まずは、写真全体から感じる印象を整えればよいだろう。
また、Lightroom Classicはハイライトの再現性がとても高くて、画面では見えていなくても「データとして持っている色」を上手に引き出してくれる。この特性を生かして、ハイライト(写真左上の太陽の周囲)の見え方も調整しておきたい。これらの調整が済んだら、写真をPhotoshopに渡す準備は完了だ。
Lightroom Classicを使った色調整のポイント
2Photoshopでは「トーンカーブ」で仕上げを行う
Photoshopで使う機能は「トーンカーブ」。僕の場合、写真の仕上げはほとんどこの機能で事足りている。ただし、そのまま「トーンカーブ」を適用(「イメージ」メニューの「色調補正」から実行)すると写真が直接描き変わってしまい、取り消しや修整の作業が面倒になる。それを回避するためにも、「調整レイヤー」から「トーンカーブ」を実行するのがポイントだ。これにより、元画像を破綻させず、微調整しながらの作業がしやすくなる。
「トーンカーブ」は明暗やコントラストを変えるだけでなく、ハイライトやシャドウの状態の改善、色の再現などにも使っている。シャドウがつぶれた写真に対し、「トーンカーブ」で黒をわずかに明るくしてシャドウの濃淡を調整するような使い方も多い。撮影していると、どうしてもシャドウのつぶれやハイライトの白とびが生じるが、その部分を「どのように見せるか」を考えることはとても大切だ。
また、おススメの使い方として、「描画モード」と組み合わせたテクニックがある。たとえば、「トーンカーブ」の「調整レイヤー」に対して「描画モード」を「輝度」にすると、色を変えずに明暗やコントラストが変えられるようになる。通常の場合、「トーンカーブ」で補正すると色の濃度も変化するが、「輝度」設定により明暗と色の濃度を分けた調整ができるというわけだ。
今回の写真でいうと、現場ではシャドウにもっと湿度感のある青みを感じていたので、「トーンカーブ」+「カラー」の描画モード設定でシャドウに対して青が強くなるように調整している。さらに、ハイライトに赤を足して暖色系を増すことで、シャドウは湿度のある陰を、ハイライトは太陽の暖かな光の印象を出してみた。
「トーンカーブ」を使った仕上げのポイント
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仕上げの作業に使う機能は「トーンカーブ」。「調整レイヤー」として使うので、「レイヤー」パネルの下部にある「塗りつぶしまたは調整レイヤーを新規作成」ボタンから「トーンカーブ」を選択して補正機能を表示する。 -
黒つぶれが気になるときは、「トーンカーブ」で黒のレベルを少しだけ上げてから、すぐ隣にポイントを作りシャドウの濃さをコントロールしている。カーブ全体が持ち上がらないように、適切な箇所にポイントを作っておきたい。 -
「トーンカーブ」レイヤーの「描画モード」を「輝度」に変更。これにより、色を変えずに明暗やコントラストが調整できる。補正すると色が不自然に濃くなるようなときは、このテクニックを使うと調整しやすいだろう。 -
色を補正したいときは、「トーンカーブ」レイヤーの「描画モード」を「カラー」に変更する。この写真では、「トーンカーブ」の「チャンネル」で「ブルー」に設定し、シャドウを少し持ち上げて湿度感を出している。
3Photoshopの「クイックマスク」も覚えておきたい
「トーンカーブ」とともに覚えたい機能が「クイックマスク」。機能をオンにして、「ブラシツール」で写真をドラッグすると赤く塗りつぶせる機能だ。実は、色を塗った部分に対して「トーンカーブ」などの補正が施せる便利な機能でもある。色の濃さに合わせて補正の強さが変化するため、塗り色を薄くしておくことで微妙な明暗やコントラストが調整できる、デリケートな部分補正には必須といえる。使うまでの手順が少々複雑だが、機械的に流れを覚えてしまえばOK。
「トーンカーブ」や「クイックマスク」などで写真を仕上げたら、「ファイル」メニューの「保存」を実行すればPhotoshopでの作業は完了だ。仕上げた写真は、Lightroom Classicに自動的に追加される。
「クイックマスク」を上手に使うためのテクニック
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「クイックマスクモードで編集」ボタンをクリックするとクイックマスクが使えるようになる。初期設定では色を塗った部分がマスクされる(選択範囲外になる)が、ボタンをダブルクリックすることで変更可能。 -
「ブラシツール」を選択して、「不透明度」を「50%」に設定。この設定が使いこなしのコツで、塗り色を少し薄くすることで「トーンカーブ」を使った補正の効きがマイルドになり、デリケートな補正が施せる。 -
補正したい部分をドラッグ。写真上で赤く塗られた部分を補正すると思えばよい。赤く塗った部分を変更したり消したいときは、「消しゴムツール」を使えばOK。補正する部分を塗りつぶそう。 -
塗りつぶしが完了したら、再び①と同じボタン(名前が変わって「画像描画モードで編集」ボタンになっている)をクリック。選択範囲が作成されるが、このままでは塗りつぶした部分は「選択範囲外」の状態。 -
「選択範囲」メニューの「選択範囲を反転」を実行すると、塗りつぶした部分(=補正したい部分)が選択できる。普通に選択範囲を作る場合と異なり、「半透明」な状態で選択されている点がポイント。 -
選択範囲が作られている状態で、「調整レイヤー」の「トーンカーブ」を作成。「レイヤー」パネルの「レイヤーマスクサムネール」に、塗りつぶした形状が黒地にグレーで表示されていれば補正準備は完了だ。
「加工」の領域に踏み込み過ぎないようにしたい
「画像化」で大切な点は、作業を、①調整、②仕上げ、③加工、に分類して考えるということ。具体的にいうと、①の「調整」とはLightroom Classicを使ってホワイトバランスやハイライトなどを整える作業に当たる。②の「仕上げ」はPhotoshopで「トーンカーブ」を使った補正作業だ。ここまでの作業で仕上げれば問題ない。
でも、ここから先、たとえば、Lightroom Classicの「テクスチャ」や「明瞭度」でディテールを過度にクッキリとさせるような処理を行うと、写真は途端に「嘘くさく」なってしまう。「彩度」を強くしてビビッド過ぎる発色にしても同様だろう。分かりやすくいうなら、「仕上げ」とは雰囲気を出す補正、「加工」とは自分のイメージを超える処理、と思えばよい。もし、一晩寝た後に写真を眺めてみて、不自然に見えたり印象の悪さを感じたとしたら、それは「加工」の領域に踏み込み過ぎた写真ということだ。
「加工」の領域に踏み込むと写真は不自然になる
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Before[色調整前]
Lightroom Classicで表示した状態の写真。写真に写っている色と現場で感じた色に差が出ているため、まずはこれをLightroom Classicで調整。「調整」「仕上げ」「加工」を意識して画像化していく。 -
After①[仕上げ]
記憶しているイメージに従って、Photoshopの「トーンカーブ」で青みの深いグリーンに補正。さらに、黒つぶれに近いシャドウを少し持ち上げることで、全体から感じる立体的な印象を出している。 -
After②[加工]
Lightroom Classicで「テクスチャ」機能を過度に使ったため、不自然なほどにディテールが際立った状態になっている。補正を繰り返しているとこのような状態に陥りやすいので注意したい。
[まとめ] 物語は「立ち位置」と「仕上げ」から生まれてくる
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僕が考える「物語を伝える写真の作り方」は、第一に「立ち位置」をハッキリとさせて作品を撮るということ。これは、撮りたい「テーマ」を抱き、撮って、掘り下げて、再び撮って……と繰り返していけばよい。セレクトや撮影を繰り返すことでテーマに深みが出て、立体的な作品に仕上げられる。
そして、セレクトしてまとめた写真を適切に仕上げること。Lightroom Classicを使った調整にはじまり、Photoshopの「トーンカーブ」で色調が破綻しないように仕上げていく作業だ。その際、「加工」の領域に踏み込み過ぎないように肝に銘じてもらいたい。
これらの工程を経たら、作品をまとめて眺めてみよう。写真展などを意識して、見せ方をプランニングするのもよいことだ。そうすることで、自分のテーマに何が足りないのかが見えてくるし、それを補うにはどのようなアプローチが必要なのかを考えられるようになる。その糸口を見つけたら、再び撮って、掘って、撮って、セレクトして、と繰り返していけば、写真にはおのずと物語性が宿ってくるだろう。