この記事は2019年8月17日に大阪で開催された“「その1枚を物語に」セミナーシリーズ・写真家が語る「物語を伝える」写真のつくりかた”をレポートしたものです。
一般に、RAW現像は撮った写真を思い描いたイメージに仕上げる、またはより良く見せる工程とされている。僕は、RAW現像は写真と向き合い、対話し、写真に写っているものを探す作業でもあると考えている。Lightroomを使った現像からPhotoshopを使った仕上げまで、作品のまとめ方をご紹介しよう。
- 公文健太郎 Kentaro Kumon
- 1981年生まれ。写真家 。ルポルタージュ、ポートレートを中心に雑誌、書籍、広告で幅広く活動。同時に国内外で「人の営みがつくる風景」をテーマに作品を制作。近年は日本全国の農風景を撮影し『耕す人』と題して写真展・写真集にて発表。その他作品多数。2019年新作『暦川』発表予定。2012年『ゴマの洋品店』で日本写真協会新人賞。
http://www.k-kumon.net/
公文健太郎氏の作品「半島」
公文健太郎氏の写真展「暦川」
作品を作るときは「立ち位置」をハッキリとさせたい
「自分は○○な人間だ」と伝えられること
一口に写真といっても、たくさんのジャンルやスタイルがある。でも、ここで考えてみたい、「写真って何だろう?」と。
答えのひとつとして、写真展や写真集を目的とした「自由な写真表現」がある。おそらく、大部分の方が自由な写真表現をしたいと考えているのではないだろうか。ほかにも、明確な目的をもった商業利用の「広告写真」や、SNSなどにアップする「プライベート写真」なども一例だ。
SNSでは写真に「いいね」がもらえるのが楽しみのひとつだが、そんな写真を眺めていて不思議に思うことがあるかもしれない。自分よりも気軽に写した写真に見えるのに、なぜ「いいね」をたくさんもらっているかと。中には、商業利用の写真や、自由な表現の写真よりも人気の高い写真だってある。
実をいうと、この点にこそ「今どきの写真」の大きなヒントが隠されているのだ。そしてそれを知ることで、「物語を伝える写真」が撮れるようになる。
では、なぜプライベートでよい写真が撮れるようになったのかというと、ひとつにカメラの進歩がある。スマホのカメラでさえ、簡単にきれいな写真が撮れようになった点が大きいだろう。それと、「立ち位置」がハッキリとしているという点。これにより写真から「リアリティ」や「シズル感」が伝わってきて、多くの人から共感されやすくなる。この点に関しては、友人でモデルでもあるリサさんの写真を見てもらうと分かりやすい。
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リサさんが撮影する写真の一例。彼女は旅が好きで、その写真をSNS上で公開している。統一された世界観で撮影された写真が、彼女の魅力のひとつといえる。
彼女の写真は多くの人から共感を得ていて、たくさんの「いいね」をもらっている。その理由を探ってみると、見えてくるのは旅が大好きということ。そして、自分がお茶目な性格だと理解しそれをアピールしていること。つまり、「私は○○な人間なんです」ということがものすごくハッキリとしていて、それが写真にみなぎっている。
だからこそ、彼女のSNSは統一された世界観に溢れていて、それが人に伝わりやすい写真になっているというわけだ。
立ち位置を明確にすると得られるメリットとは?
立ち位置がハッキリとした写真が撮れるようになると、作品の内容も変化してくる。ひとつは、単写真から多(組)写真になるということ。一枚の写真から得られる情報は限られるが、数が増えると情報量も多くなる。つまり、作品に対して多彩な解釈ができるようになってくる。
そして、ジャンルにとらわれなくなる。たとえば、風景の裏にはそれを作った農家の存在があることを知ると、風景の見え方もまた違ってくる。つまり、風景写真といいつつも、農家を撮るようになるかもしれない。このようにジャンルが曖昧になることで、「桜が大好きだ」みたいに自分の強い好みを押し付けることもなくなるだろう。
それから、自分の色彩感覚をもった写真になる点。これは、LightroomやPhotoshopで調整したり、仕上げることで得られる写真だ。ほかにも、客観的なストーリーを有したり、多角的で立体感のある作品に昇華するなども、立ち位置がハッキリとしているからこそ得られるメリットといえる。
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多写真になる(枚数が増える)とLightroom Classicでの管理が効率的。セレクトして調整したものに対して、Photoshopを使いで自分の色彩の写真に仕上げる。ストーリーのある写真としてまとめたり、作品展のプランニングをするときは、Lightroom ClassicだけでなくIllustrator、InDesignなども使っている。
この記事で解説する「Lightroom」について
PCで使えるデスクトップ版のLightroomは「Lightroom」と「Lightroom Classic」の二つがあります。どちらもCreative Cloudの「フォトプラン」(980円/月)で使うことができます。「Lightroom」は、デスクトップ、モバイル、webのどこでも動作する、クラウドベースの新しいフォトサービスで、「Lightroom Classic」は、デスクトップ向けデジタルフォト製品です。この記事では「Lightroom Classic」での画面や操作で解説していますが、同等のことが「Lightroom」でも可能です。
Lightroom ClassicとPhotoshopで「画像化」を行う
「物語を伝える」ためのワークフロー
物語を伝える写真を作るためのワークフローは、①テーマを考える、②撮る、③掘る、④撮る、となる。単に撮るだけでなく、その後にテーマを掘り下げて、また撮影することが大切だ。そして、⑤セレクトして画像化(調整や仕上げ)していく。ただし、このワークフローは一度で終わらせるのではなくて、何度も何度も繰り返してから、作品としてまとめるようにしてもらいたい。
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テーマを考えてから画像化までを行ったら、再び撮る、掘る、撮る……と何度も繰り返す。その段階を踏んでから写真をまとめることで、写真にストーリー性が生まれてくる。それぞれの段階で、LightroomシリーズやPhotoshopなど、目的に適したソフトを使うと検討しやすい。
今回は、これらの作業の中で、Lightroom ClassicとPhotoshopを使ったセレクトと仕上げ方ついて紹介しよう。撮影した写真はLightroom Classicに取り込んでいて、そこでセレクトを行っている。使用する機能は「レーティング」(★印)と「カラーラベル」で、サムネールに★印を付けたり、色を付けたりして分類していく。
ショートカットキーを使うことで効率よくセレクトできる
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主要なセレクト機能が「レーティング」。サムネール下の「・・・・・」をクリックすると設定できるが、キーボードの「1」キーを押すと★、2キーを押すと★★のように、キーボードを使う(0~5キー)と簡単。
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サムネールを「レッド」や「イエロー」などの5色で色分けする「カラーラベル」も使っている。サムネール右下のアイコンや右クリックメニューから選べるが、一部の色はキーボード(6~9キー)を押しても設定可能。
「レーティング」と「カラーラベル」のルールとしては、まずは気になった写真に「★」を付けて大まかにセレクト。それからもう一度見直して「★★」を付けるというように、★の数を増やしてセレクトを追い込む方法が分かりやすい。つまり、セレクトが進むということは、★の数が増えることと同義だ。「カラーラベル」に関しては、調整の状態によって「レッド」や「イエロー」を付けて管理している。
Lightroom Classicの場合、これらの機能を使うことで「フィルター」による写真の絞り込みがしやすくなる。たとえば、「★★★だけ」を表示してセレクトの段階別に確認したり、「カラーラベル」を指定して調整の有無別に表示したり、最終的にまとめるべき写真だけを表示して「テーマに対する目の付けどころ」を確認したりなど。あらゆる段階や状態ごとに写真が見直せる点がとても便利だし、クオリティーアップには欠かせない機能だ。
セレクトしたら「フィルター」機能で表示を絞り込む
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1セレクトした写真をLightroom Classicで記憶色に近づける
写真のセレクトが進んだら、「画像化」を行っていく。「画像化」とは、そのままでは見ることができないRAWで撮影した写真を、Lightroom Classicに読み込んで写真の状態にすること。僕はこの作業を「画像化」と呼んでいる。作業の流れとしては、Lightroom Classicで写真を表示(画像化)して色を調整、その後にPhotoshopで仕上げを行う。まずは、Lightroom Classicを使った調整の仕方から。
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僕の場合、Lightroom Classicの調整で比較的大きなウェイトを占めるのが、ホワイトバランスに関する作業。僕はひとを撮っているので、撮影の現場でカメラの設定に惑わされないように、ホワイトバランスは「太陽光」に固定している。そのため、現場の色と写真の色が異なってしまうことが多い。
調整する写真は、雨上がり後の夕方に森の中で撮影したものだが、現場で感じた色、いわゆる「記憶色」との違いが出てしまっている。撮影の現場で感じた夕刻の暖かな光が再現されていない。ほかにも、シャドウ付近の湿度感や、人物周辺の明るさなども気になるところだが、Lightroom Classicの役目は「大まかな色の調整」にある。細部の仕上げはPhotoshopに任せればよいので、まずは、写真全体から感じる印象を整えればよいだろう。
また、Lightroom Classicはハイライトの再現性がとても高くて、画面では見えていなくても「データとして持っている色」を上手に引き出してくれる。この特性を生かして、ハイライト(写真左上の太陽の周囲)の見え方も調整しておきたい。これらの調整が済んだら、写真をPhotoshopに渡す準備は完了だ。
Lightroom Classicを使った色調整のポイント
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2Photoshopでは「トーンカーブ」で仕上げを行う
Photoshopで使う機能は「トーンカーブ」。僕の場合、写真の仕上げはほとんどこの機能で事足りている。ただし、そのまま「トーンカーブ」を適用(「イメージ」メニューの「色調補正」から実行)すると写真が直接描き変わってしまい、取り消しや修整の作業が面倒になる。それを回避するためにも、「調整レイヤー」から「トーンカーブ」を実行するのがポイントだ。これにより、元画像を破綻させず、微調整しながらの作業がしやすくなる。
「トーンカーブ」は明暗やコントラストを変えるだけでなく、ハイライトやシャドウの状態の改善、色の再現などにも使っている。シャドウがつぶれた写真に対し、「トーンカーブ」で黒をわずかに明るくしてシャドウの濃淡を調整するような使い方も多い。撮影していると、どうしてもシャドウのつぶれやハイライトの白とびが生じるが、その部分を「どのように見せるか」を考えることはとても大切だ。
また、おススメの使い方として、「描画モード」と組み合わせたテクニックがある。たとえば、「トーンカーブ」の「調整レイヤー」に対して「描画モード」を「輝度」にすると、色を変えずに明暗やコントラストが変えられるようになる。通常の場合、「トーンカーブ」で補正すると色の濃度も変化するが、「輝度」設定により明暗と色の濃度を分けた調整ができるというわけだ。
今回の写真でいうと、現場ではシャドウにもっと湿度感のある青みを感じていたので、「トーンカーブ」+「カラー」の描画モード設定でシャドウに対して青が強くなるように調整している。さらに、ハイライトに赤を足して暖色系を増すことで、シャドウは湿度のある陰を、ハイライトは太陽の暖かな光の印象を出してみた。
「トーンカーブ」を使った仕上げのポイント
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3Photoshopの「クイックマスク」も覚えておきたい
「トーンカーブ」とともに覚えたい機能が「クイックマスク」。機能をオンにして、「ブラシツール」で写真をドラッグすると赤く塗りつぶせる機能だ。実は、色を塗った部分に対して「トーンカーブ」などの補正が施せる便利な機能でもある。色の濃さに合わせて補正の強さが変化するため、塗り色を薄くしておくことで微妙な明暗やコントラストが調整できる、デリケートな部分補正には必須といえる。使うまでの手順が少々複雑だが、機械的に流れを覚えてしまえばOK。
「トーンカーブ」や「クイックマスク」などで写真を仕上げたら、「ファイル」メニューの「保存」を実行すればPhotoshopでの作業は完了だ。仕上げた写真は、Lightroom Classicに自動的に追加される。
「クイックマスク」を上手に使うためのテクニック
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「加工」の領域に踏み込み過ぎないようにしたい
「画像化」で大切な点は、作業を、①調整、②仕上げ、③加工、に分類して考えるということ。具体的にいうと、①の「調整」とはLightroom Classicを使ってホワイトバランスやハイライトなどを整える作業に当たる。②の「仕上げ」はPhotoshopで「トーンカーブ」を使った補正作業だ。ここまでの作業で仕上げれば問題ない。
でも、ここから先、たとえば、Lightroom Classicの「テクスチャ」や「明瞭度」でディテールを過度にクッキリとさせるような処理を行うと、写真は途端に「嘘くさく」なってしまう。「彩度」を強くしてビビッド過ぎる発色にしても同様だろう。分かりやすくいうなら、「仕上げ」とは雰囲気を出す補正、「加工」とは自分のイメージを超える処理、と思えばよい。もし、一晩寝た後に写真を眺めてみて、不自然に見えたり印象の悪さを感じたとしたら、それは「加工」の領域に踏み込み過ぎた写真ということだ。
「加工」の領域に踏み込むと写真は不自然になる
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[まとめ] 物語は「立ち位置」と「仕上げ」から生まれてくる
僕が考える「物語を伝える写真の作り方」は、第一に「立ち位置」をハッキリとさせて作品を撮るということ。これは、撮りたい「テーマ」を抱き、撮って、掘り下げて、再び撮って……と繰り返していけばよい。セレクトや撮影を繰り返すことでテーマに深みが出て、立体的な作品に仕上げられる。
そして、セレクトしてまとめた写真を適切に仕上げること。Lightroom Classicを使った調整にはじまり、Photoshopの「トーンカーブ」で色調が破綻しないように仕上げていく作業だ。その際、「加工」の領域に踏み込み過ぎないように肝に銘じてもらいたい。
これらの工程を経たら、作品をまとめて眺めてみよう。写真展などを意識して、見せ方をプランニングするのもよいことだ。そうすることで、自分のテーマに何が足りないのかが見えてくるし、それを補うにはどのようなアプローチが必要なのかを考えられるようになる。その糸口を見つけたら、再び撮って、掘って、撮って、セレクトして、と繰り返していけば、写真にはおのずと物語性が宿ってくるだろう。
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