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「その1枚を物語に」セミナーシリーズ
写真家 中西敏貴が語る「物語を伝える」写真のつくりかた
風景を捉える視点

この記事は2019年8月17日に大阪で開催された“「その1枚を物語に」セミナーシリーズ・写真家が語る「物語を伝える」写真のつくりかた”をレポートしたものです。

カメラで撮影した「データ」を「写真」に仕上げていく作業は、銀塩時代の暗室作業となんら変わることはない。撮影時に感じた作者のイメージを、どのように写真に落とし込んでいくかが重要だ。そして、現像やレタッチでは変えることのできない「構図」は撮影時に徹底的に追い込んでおく。

中西敏貴中西敏貴 Toshiki Nakanishi
1971年生まれ。在学中から北海道へと通い続け、2012年に撮影拠点である美瑛町へ移住し写真作家としての活動を開始。そこに住まう者としての視点を重視しつつ、農、光、造形を主なテーマとして作品制作を続ける。
http://toshikinakanishi.com/
風景を捉える視点

近代デザインの表現上の特徴

1. 非対称の構図

  • 作例
    作品1
  • 作例
    作品2
  • 作例
    作品3

近代デザイン上における特徴の一つとして、シンメトリーとは対極ともいえる非対称の構図がある。メインとなる被写体を中心からズラすことで視線を動かせるということはもちろん、空間的な余韻や間が生まれることで作品に情緒が漂うようになる。これは日本的な概念にも通じるものであり、西欧のそれとはフレーミングを構築していく際の思考が異なるものだとも言える。作品1では右上にトラクターを置き、そこへ向かうように畝のラインをS字に描くように繋げていくことで視線を誘導している。作品2では、木立ではシンメトリーのように見せつつも、もっとも強い印象の太陽を中心からズラすことで、フレーミングに動きを生み出す。作品3は逆で、強い太陽を中心に据えつつ、木を右にズラして空間的なバランスを取り、画面に緊張感を与えている。

2. 平面的表現

  • 作例
    作品1
  • 作例
    作品2
  • 作例
    作品3

平面的表現とは、いわゆる遠近法を意識しないフレーミングのことだ。「遠近法」は西欧絵画では当然のように用いられる手法だが、日本画の世界には遠近法を無視したかのような表現が多い。これを写真に置き換えた場合、望遠レンズによる圧縮効果を使うと、平面的に表現することができるだろう。作品1の場面は、手前にいる鹿とその背景の海の距離感を、望遠レンズの圧縮効果を使うことによって消失させている。同じく作品2においても、お互いにかなりの距離がある桜と田圃を一つのフレームに凝縮して、桜の咲く季節を表現している。作品3の山並みは撮影ポイントから数十キロ離れた場所にあるもの。レンズの効果によって画面内にあるものの距離感や遠近感を喪失させ、3次元の世界を2次元に置き換えている。

3. 斜線の配置によるダイナミズム

  • 作例
    作品1
  • 作例
    作品2
  • 作例
    作品3

画面内に斜めのラインを取り入れると、視線の方向性が生まれ、ダイナミックな印象が強まる。もちろん、自然の中に実際の直線があるわけではないので、山の斜面や光芒、影などを使って斜線を生み出す工夫が必要だ。ある点と別の点を結ぶ、実際には存在しない線を「力線」というが、この力線を発見することがカギになるだろう。作品1における斜線は、霧が作り出した光芒のラインになる。太陽の位置、木立の位置などを組み合わせて計算するとある程度このラインの方向性は読むことができる。作品2は山の斜面のラインとその斜面が生み出す影を斜線として利用している。作品3は応用編で、斜線の組み合わせに影が作り出した曲線を加えてさらにダイナミックな印象を作り出している。

4. 抽象的表現と具象的表現の融合

  • 作例
    作品1
  • 作例
    作品2
  • 作例
    作品3

様々な解釈があるが、ここでは人工的な幾何学模様とオーガニックな被写体との組み合わせとして紹介したい。これらは、農業用のマルチシートと呼ばれるビニール製のシートを主軸に様々な気象条件を組み合わせて作品に仕上げている。午後遅くの太陽の光を組み合わせて、パターン的に捉えた作品1。絞りを開けることで手前がボケ、奥行きを感じるような工夫をしている。真っ赤に色づいた太陽と川に見立てたマルチシートを組み合わせた作品2。こちらは逆に絞り込み、平面的に見せている。劇的な朝焼けと組み合わせた作品3では、焼けた空の赤をマルチシートに反射させて、画面全体を朝焼けの印象で覆い尽くした。

5. 紋様美

  • 作例
    作品1
  • 作例
    作品2
  • 作例
    作品3

平面的表現に通じる部分もあるが、物事をデザイン的に見たりパターン的に見たりという方法がある。自然が生み出す繰り返しのパターンや複雑な紋様には、人の手では生み出すことは難しい造形美があるものだ。古来の日本的デザインは、きっとこのような紋様美からヒントを得て生み出されてきたのではないだろうか。作品1は川の水面のパターンを切り取ったもの。キラキラと光り輝く部分の形がもっともバランスのよいカットをセレクトしている。作品2はラベンダーの畝に雪が積もったパターンを、圧縮効果を併用してパターンを描いた。人が作り出した畝の形に、自然の雪が重なり絶妙の紋様が生み出された。作品3は池に落ちた落ち葉の紋様を描いたもの。点と点を結ぶ力線を見つけ出し、バランスよくフレーミングしている。

6. デフォルメ

  • 作例
    作品1
  • 作例
    作品2
  • 作例
    作品3

平面的表現とは異なり、遠近感やスケール感などを強調することで印象を誇張する方法もある。広角レンズを使ってデフォルメするというのが一般的に分かりやすいが、写真ならではのスローシャッターを利用してもいいだろう。作品1は広角レンズを使って対象物に近づき、手前から奥までの遠近感を誇張している。色の対比をプラス要素として加えていることも、さらに印象を強くする。作品2は超広角レンズを使うことで広がりを誇張し、さらに現像時に空の立体感を強めている。作品3は望遠レンズによる撮影だが、スローシャッターを使うことで雲の動きを強調し、肉眼では感じられない印象を誇張している。この作品も現像時に立体感を高める作業を加えることで、より強い印象へと導くことができる。

この記事で解説する「Lightroom」について
 PCで使えるデスクトップ版のLightroomは「Lightroom」と「Lightroom Classic」の二つがあります。どちらもCreative Cloudの「フォトプラン」(980円/月)で使うことができます。「Lightroom」は、デスクトップ、モバイル、webのどこでも動作する、クラウドベースの新しいフォトサービスで、「Lightroom Classic」は、デスクトップ向けデジタルフォト製品です。この記事では「Lightroom Classic」での画面や操作で解説していますが、同等のことが「Lightroom」でも可能です。

アドビツールで作品をデザインする

1非対称の構図

前段でも書いたが、構図は撮影時にしっかりと決めておくべき要素だ。現像は、その構図の意図をより強調する作業になる。カメラプロファイルやレンズプロファイルを適用してベースを作ってから、どこまでコントラストを高めるのかを設計して作業を進める。この画像では、上部の暗部と畝の土の部分を暗くし、緑の畝を立ち上げることで、畝の曲線と右上に流れていくイメージを強調するのが狙いだ。実際の作業は、コントラストスライダを使っても良いしトーンカーブを使っても良い。大切なことは、写真のどの部分が影響しているのかを見極めながら調整を進めること。Lightroomではマウスを置くと、ヒストグラム上がグレー反転するので、それを見ながら作業していくといいだろう。また、彩度に関しては必要以上に上げないことが重要だ。
  • 非対称の構図:作品1
  • 操作イメージ
    RAWファイルをLightroomに読み込んだら、まずは目標を定める。ゴールを決めないと際限なくパラメーターを動かしてしまい、結果的に良い結果にはならないことが多い。どこまで追い込むかを最初にイメージしておく。
  • 操作イメージ
    まず、色収差やレンズによる歪みなどを補正する。写真によってはチェックを入れない方が良い結果になることもあるので、写真に応じて変えるといい。
  • 操作イメージ
    最初にプロファイルを好みのものを選ぶ。ここでは比較的コントラストが高めの「カメラ標準」を選択し、現像の方向性のベースを作る。さらにコントラストを少し上げ、ある程度のイメージまで持っていく。
  • 操作イメージ
    白レベルをプラス方向に動かし、ハイライト側を強調。さらに黒レベルをマイナス方向に動かし、画面上部の暗部の黒を締める。
  • 操作イメージ
    明瞭度を少し上げ、ライト側をシャドウ側の分離をよくする。ここまでの作業で彩度が上がってしまっているので、自然な彩度をマイナス側に動かし、自然な色調に戻す。
  • 操作イメージ
    HSL/カラーで、グリーンのみを調整する。まず色相を右側にスライドして緑の中の黄色味を抜く。さらにグリーンの輝度を右側にスライドし、畝のラインを強調する。

2斜線の配置によるダイナミズム

霧が生み出す斜線の印象を強くするための設計書はこうだ。朝の雰囲気を出すためにホワイトバランスを青系に振る。ハイライトをわずかに立て、中間調からシャドウ側を暗くして画面にメリハリを出す。「かすみの除去」をマイナスにすることで霧の雰囲気を強めてから、斜線の印象が強くなるまでコントラストをアップさせる。当然彩度が上がってくるので、その都度自然な彩度をマイナス方向に動かしながら、不自然な色合いにならないよう作業を進める。この作業は過剰に現像作業をしているのではなく、あくまで撮影時に抱いたイメージを再現する作業になる。つまり、ありえない条件を現像で作り出すのではないということを理解して欲しい。RAWデータの情報量は豊富なのだが、撮影時とは少し異なる印象を覚えることが多いと思う。あくまでそのイメージのギャップを埋めていく作業なのだと肝に命じて欲しい。

  • 斜線の配置によるダイナミズム:作品1
  • 操作イメージ
    プロファイルで「カメラ標準」をチョイスしてベースを作ってから、朝の透明感を表現するためホワイトバランスを青系にスライドさせる。後でコントラストを上げるので、ここでの色味はほどほどに。
  • 操作イメージ
    レンズ補正で、色収差とレンズ補正のプロファイルにチェックを入れる。この作品では適用した方がいいと判断した。
  • 操作イメージ
    コントラストをプラスし全体の方向性を決める。さらに白レベルを上げ、黒レベルを下げて、さらにメリハリをつける。
  • 操作イメージ
    「かすみの除去」をマイナス側にスライドし、霧の雰囲気を高めた上で明瞭度をプラス側にスライド。ハイライト側のメリハリを強めた。不自然になった彩度をこの時点でマイナスにスライドし、調整しておく。
  • 操作イメージ
    中間調からシャドウ側を中心に暗くしたいので、トーンカーブを使ってさらに細かく補正。必要であれば、「自然な彩度」をさらにマイナスにスライドし、自然な色調をキープする。
  • 操作イメージ
    基本補正パネルに戻り、「露光量」をマイナスにスライド。印象によってはホワイトバランスも最終調整し、黒レベル、白レベルなども微調整して、仕上げていく。

3デフォルメ

撮影時にある程度デフォルメした構図で仕上げているので、現像ではその印象をより強いものへと仕上げていく。この写真で最も強調したいのは空のディテール。流れ行く雲のモコモコとした立体感をいかにして出していくかが、この写真の現像の答えだ。実際にスライダを動かしてみるとわかるが、ここでコントラストをアップさせると不自然なほど彩度が高くなってしまう上に、それほどディテール感が強調されない。そこで活躍するのが「明瞭度」と「かすみの除去」スライダだ。とくに「かすみの除去」はこのような凹凸のある雲には有効で、とても立体感のある空の表情を生み出してくれる。さらに地上部のディテールも少しだけ出すのもコツだ。これはプリントした時に差が出てくるだろう。地上部が黒つぶれしていると黒ベタになってしまうが、わずかに情報を残すことで土の感じが引き出せて、リアリティのあるプリントになるだろう。

  • デフォルメ:作品2
  • 操作イメージ
    超広角レンズを使用しているので、レンズプロファイルを適用して画面の歪みを補正する。同時に色収差の補正にもチェックを入れておく。
  • 操作イメージ
    空の部分明るくするために「白レベル」をプラスにスライドする。逆に、地上部分のディテールを引き出すために「シャドウ」のスライダーをプラスにスライドする。この時、不自然に明るくなりすぎないようにするのがコツ。
  • 操作イメージ
    「明瞭度」と「かすみの除去」スライドをそれぞれプラス側に動かし、流れる雲の立体感とディテール感を強調する。このような雲をデフォルメする場合にはコントラストを高めるよりも「かすみの除去」の方が効果的な場合が多い。
  • 操作イメージ
    夜明け前の青の印象は、シアンよりではなく赤みのあるイメージだ。そこでHSL/カラーでブルーを選択し、色相を調整する。ただし調整は味付け程度に留めておく。
  • 操作イメージ
    「かすみの除去」や「明瞭度」アップにともなって、ノイズも目立つようになってくる。デフォルトのままでもある程度はノイズ除去されているが、詳細に設定すると画像のクオリティがアップする。
  • 操作イメージ
    「自然な彩度」や「彩度」スライダを使用していないことに注目して欲しい。コントラストを高めるだけでも十分に彩度が上がるので、プラス側に動かすケースは少ない。

[まとめ] 絶妙のさじ加減で想像力を掻き立てる写真に仕上げよう

RAWデータの持つ情報量は豊富だ。しかし、その全てを映像として再現することが本当に必要だろうか。人の目で見ている光景と、カメラで捉えた映像は違っていて当然なのではないか。そして、見えない部分があるからこそ、より想像力を掻き立てられ、イメージが膨らむ写真になると信じている。自然界のコントラストや色彩は確かに驚くべきところはあるが、作者はその中でもどこに最も感動したのかを再現して欲しい。言い換えれば、一番見せたい部分をどうやって強調するかということをイメージして現像作業を行って欲しいと思うのだ。LightroomとPhotoshopの組み合わせは、表現の可能性をどこまでも広げてくれる。しかし、ツールが全面に出てしまっては本末転倒だ。主役は写真であり、作者の思いなのだから、あくまで隠し味として絶妙のさじ加減で使ってこそ、最高にカッコいいと思う。

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