「その1枚を物語に」セミナーシリーズ
写真家 佐藤かな子が語る「物語を伝える」写真のつくりかた
撮った時の想いを再現するRAW現像術

この記事は2020年2月11日に東京で開催された“「その1枚を物語に」セミナーシリーズ・写真家が語る「物語を伝える」写真のつくりかた”をレポートしたものです。

佐藤かな子佐藤かな子 Kanako Sato
日本写真芸術専門学校・広告科修了。街中でのスナップ写真や水中での撮影を行い、国内外で個展を開催している。撮影のほか、写真教室や撮影イベントでの講師業、書籍・雑誌への作品掲載や執筆を行う。

街スナップの撮影を難しく考える必要はありません。言ってみれば、スナップとは宝探し。「楽しい出会いがある」という前提で街を見てみましょう。「今日は撮るものがない」と思った瞬間、良い被写体を見つけるアンテナは鈍ります。好奇心を持って被写体に寄ってみたり、カメラの高さを変えてみたり。アプローチの仕方を変えてみるのも面白いものです。

今回はスナップ撮影の中でも夜スナップについて説明します。夜スナップならではの楽しみ方から、私がどうやって夜スナップ作品のRAW現像をしているかを解説します。

この記事で解説する「Lightroom」について
PCで使えるデスクトップ版のLightroomは「Lightroom」と「Lightroom Classic」の二つがあります。どちらもCreative Cloudの「フォトプラン」(980円/月)で使うことができます。「Lightroom」は、デスクトップ、モバイル、Webのどこでも動作する、クラウドベースの新しいフォトサービスで、「Lightroom Classic」は、デスクトップ向けデジタルフォト製品です。この記事では「Lightroom」での画面や操作で解説していますが、同等のことが「Lightroom Classic」でも可能です。

夜スナップの楽しみ方

夜スナップのポイントをまず1つ挙げましょう。それは日没直後の時間帯を逃さないようにすること。真っ暗になってからではなく、日没から15分〜30分後に撮影をスタートするのがおすすめです。

例えばこの作品は、空にまだ色が残っている日没してすぐに撮りました。空の青色と東京タワーのオレンジ色に、左下からのピンクの照明を合わせています。

暗い環境で撮影する夜スナップは、スローシャッターを表現に取り入れやすいかと思います。

こちらの作品では、メリーゴーランドに乗る子供に手を振る男性は止まっていますが、回るメリーゴーランドは動きが感じられます。1/15秒のスローシャッターにしてぶれているためです。

夜スナップの楽しさのひとつに、きれいな写り込みがあります。

この作品では明るい単焦点レンズを使い、奥にピント合わせることで、手前のガードレールをぼかしています。街明かりの写り込みが際立つように、黒い車が通る瞬間を待って撮りました。

RAW現像でイメージに近づける

ここからは夜スナップ作品のRAW現像を実際に見ていただきたいと思います。

今回のデモでは、RAW現像ソフトに「Lightroom」を使います。より本格的な「Lightroom Classic」よりシンプルですので、これからRAW現像に調整する方には使いやすいと思います。

この作品はオーストラリアのシドニーで、偶然迷い込んだ路地裏で撮ったものです。絞りは開放のF2、シャッター速度は1/80秒、ISO感度は高めのISO 2500です。

「Lightroom」にはたくさんの機能があり、目的を定めずに機能を試していると、着地点がわからなくなる可能性があります。私の場合、撮影現場でできなかったことをRAW現像で補うようにしています。

例えばこの写真の場合は、ノイズの軽減と質感の強調がメインの調整項目になります。

現場ではもう少し絞り込んで撮影したかったのですが、暗かったので絞り開放で撮影しています。被写界深度から外れたことで再現しきれなかった、壁の質感をRAW現像で強調したいと思います。

気になる部分を拡大して、「ノイズ低減」スライダーを様子を見ながら操作します。やり過ぎてしまうとぬるっとした質感になってしまいますので注意してください。

  • ノイズ低減なし
    ノイズ低減なし
  • ノイズ低減あり
    ノイズ低減あり

ノイズを低減して質感が柔らかい感じになってしまったら、「テクスチャ」をかけて補います。

  • テクスチャなし
    テクスチャなし
  • テクスチャあり
    テクスチャあり

「テクスチャ」は中間調の質感を出してくれる機能ですが、全体に効果を出したい場合は「明瞭度」も使えます。コントラストが強く、エッジが効いたような絵が好きな方は「明瞭度」で調整するのも良いでしょう。

「かすみの除去」には、色が濃くなる効果と暗部が引き締まる効果があります。色を少し濃くしたい場合は、いろんなところをいじるより「かすみの除去」を全体にかけた方が、少ない手間でバランスよく補正できると思います。

  • かすみの除去なし
    かすみの除去なし
  • かすみの除去あり
    かすみの除去あり

「周辺光量」をマイナスすることで、ぐっと引き締まった絵に仕上がりますが、キーボードの「J」キーを押すと、白トビ・黒つぶれの状況が表示されるのでおすすめです。周辺光量を下げ過ぎて黒つぶれしてしまうのを防ぐことができます。

  • Jキーなし
    Jキーなし
  • Jキーあり
    Jキーあり

ここまでの調整でも良いのですが、画面全体が青っぽいので、差し色として赤系の色を強調したいと思います。カラーミキサーでレッドの「彩度」を上げてみました。カラーミキサーは画面全体ではなく、特定の色を調整する機能です。

  • レッド「彩度」0
    レッド「彩度」0
  • レッド「彩度」アップ
    レッド「彩度」アップ

夜スナップ作品をモノクロに

カラーかモノクロかは基本的に撮影の段階で決めています。ところがシーンによっては、後からモノクロ(もしくはカラーに)現像し直した方が良い結果になる場合もあります。ここでは「プリセット」機能を使ってRAW現像し、モノクロ仕上げの美しさを再確認した例を紹介したいと思います。

プロファイルから「Adobeモノクロ」を選んでモノクロにします。

  • モノクロ適用

「レンズ補正を使用」をチェックします。レンズの歪みが補正されます。

  • レンズ補正を使用

「露光量」を少し上げ、「シャドウ」をマイナスにしてメリハリをつけます。

  • 露光量アップ・シャドウマイナス後

「テクスチャ」をプラスにして質感を出します。雨の降っている状況がよくわかるようになりました。

  • テクスチャ0
    テクスチャ0
  • テクスチャプラス
    テクスチャプラス

「白黒ミックス」を使うと、モノクロにする前の色を強調できます。ここでは「白黒ミックス」の「レッド」を調整して赤い提灯の柄を出しています。さらに「オレンジ」で提灯に赤く照らされた壁や地面を強調してみました。

  • 白黒ミックス「レッド」「オレンジ」前
    白黒ミックス「レッド」「オレンジ」前
  • 白黒ミックス「レッド」「オレンジ」後
    白黒ミックス「レッド」「オレンジ」後

左上の画面端にある照明が気になりますので、「修復ブラシ」で消してみます。消したいもののなぞるだけで消えてくれるので、すごく簡単ですよね。必要のないものを消す作業を他のソフトで諦めていた方は、ぜひLightroomを使ってみてください。

  • 街灯あり
    街灯あり
  • 街灯なし
    街灯なし

[まとめ] 現場で出来ることとRAW現像ならではの仕上げをセットで考える

Lightroomにはたくさんの機能がありますので、最初は自分がどこをポイントに現像するかをメモに書き出すなどして始めた方が良いと思います。様々な効果をまとめた「プリセット」を使ってみるのも良いでしょう。簡単に仕上がりをイメージできるので、自分が撮った写真に色々なアイデアをもらうこともあるかもしれません。

今テーマのように暗いシーンでは、シャッター速度を確保するために少し暗めに撮影し、現像時に明るさを調整。または高感度で瞬間を捉え、現像時にノイズを軽減する、など撮影とRAW現像をセットで考えて臨むことで、より一層表現の幅が広がります。ぜひこれをきっかけに夜スナップを楽しんでいただき、そしてLightroomでRAW現像にチャンレンジしていただければと思います。


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